<セックス・ピストルズ>脚本のクレイグ・ピアースが思い語る「ドキュメンタリーを作ろうとしているわけじゃない」

2022/07/08 20:28 配信

ドラマ

「セックス・ピストルズ」 (C)2022 FX Productions. All rights reserved.

ディズニー公式動画配信サービス「Disney+」のコンテンツブランド「スター」にて7月13日(水)より独占配信されるオリジナルドラマシリーズ「セックス・ピストルズ」。配信に先駆けて、脚本を担当したクレイグ・ピアースのインタビューが届いた。

「セックス・ピストルズ」


今作は、1970年代にイギリスから世界的なムーブメントを起こした伝説のパンクロックバンド、セックス・ピストルズのギタリストであるスティーヴ・ジョーンズの自伝「Lonely Boy:Tales from a Sex Pistol」をもとにセックス・ピストルズを描く物語。

1975年にデビューした彼らは、反体制的な歌詞、斬新なファッションなどによってすぐに注目された一方で、危険視され中止運動が起こるなど世間を騒がせる存在となる。しかし、アメリカツアーの失敗、バンド内の不和、突如の脱退などによって、活動時期はたった3年にも満たず終わりを迎えることに。オリジナルメンバーであるスティーヴから見た、新しい視点でのセックス・ピストルズが語られる。

「セックス・ピストルズ」は単なるドキュメンタリーではない


今回解禁されたのは、脚本とエグゼクティブ・プロデューサーを務めるクレイグ・ピアースのインタビュー。本作の脚本を引き受けた理由や、脚本を書くうえでのこだわり、監督のダニー・ボイルを迎えた際のエピソードなどを語った。

――この作品は、よくある伝記ものとかではありません。これ(ピストルズ)がこういう時代から生まれてきたという瞬間があります。でも、こういった作品で時々起きるように、それは安っぽく聞こえません。この脚本を書くにあたって、あなたはどの様なことをしようとしたんですか?

クレイグ・ピアース:あなたが言いたいことはわかるよ。なぜこれらのことが時々本物でないとか、安っぽく感じられるかというと、とても有名なものとか、人とかを描いていると、それはクリシェ(目新しさが失われる)になる傾向があるからだよ。

なぜなら、彼らがどういう人で、彼らが何かということについて、すでに認識されたすべての知識があるからだよ。でもそれは、本当に彼らのイメージだけなんだ。そして、どんな脚本家の仕事も、そのキャラクターの本質的な真実と、そこに内存するすべての矛盾をとらえることなんだ。良いこと、悪いこと、醜いこと、魅力的なことすべてをね。

僕がこのプロジェクトを引き受けた唯一の理由は、スティーヴ・ジョーンズの本「Lonely Boy」に、感情に訴える適切なものがあったからなんだ。それは素晴らしかった。なぜなら、彼は有名な人じゃなかったからだ。だから、彼について認識されているすべての知識がないんだ。

もちろん、僕が引き受けるどんなプロジェクトでも、そしてほとんどのライターたちも同じだと思うけど、ものすごい量のリサーチをしないといけない。自分の心の中にその世界のイメージを築いて、その世界に対するフィーリングを作り上げないといけない。自分の想像の中にそれを宿せるようにするためにね。さもなければ、それは心の中にただいろんなものが蓄積するだけだ。

多くの場合、必ずしも脚本に入れ込まれないものを読むことになるけど、それはより広い理解を与えてくれる。誰かが何かを言うかもしれない時、その背景がわかるようになるし、または、(そのリサーチで)彼らが何かを言えるようになる。何をやろうとしているかというと、情報を与えようとしているんだ。

でも、それを情報だと感じられないようにやるんだよ。リアルな人との交流だと感じられるようにするんだ。そして、そういう本物の人との交流を通して、キャラクター間の感情的なやりとりからくるその瞬間の意味と、それがなんであれ、そのトピックについて言おうとしていることのより大きな意味の両方があるストーリーを語るんだ。

でもこの場合は、このバンドが何をやったか、彼らが何を表現したか、より広い意味で、パンクが何を表現したかということなんだ。彼らは、未来のない虐げられた子供たちだった。そして、彼らはそれに反抗して、彼らの未来を作り出した。そして、彼らは社会の核心を揺さぶったんだ。

最終的には、たった12曲がレコードにスクラッチされただけなんだ。彼らは1枚のアルバム“Never Mind the BollocksHere’s The Sex Pistols”(「勝手にしやがれ!)しか作らなかった。でも、それは彼らの社会を本当に変えたんだ。(そして)彼らに未来を与えたんだ。他のアーティストたちが立ち上がって何かを言うように刺激した。ポピュラー音楽や文化の世界を変えたんだ。

もちろん、物事は周期的に進む。このストーリーをまた語るのが重要な理由は、当時社会が経験していた多くのことに、今の社会もまた苦しんでいるからだ。保守的な反発、多くの人々にとっての経済的絶望感、その上、僕たちが直面している環境的危機もある。だから、そういった葛藤や、何かを言おうとすること。それは、人々がよく経験することだ。だから、大きなレベルで、それは重要なストーリーなんだ。大きな文化的レベル、政治的レベルにおいてね。

でも、それが、人々が実際に耳を傾けるストーリーになる唯一の方法は、人との交流にあるハートや感情、そのストーリーに伴うリアルな人間の感情を捉えることなんだ。なぜなら、それがドキュメンタリーには出来なくて、ドラマに出来ることだからだよ。僕たちはドキュメンタリーを作ろうとしているわけじゃない。

今だからこそ伝えたいセックス・ピストルズの“闘争”


――素晴らしい番組でした。あなたはなぜ今、ピストルズについての番組をクリエイトすることにしたんですか?今おっしゃったように、彼らは約50年前に出てきて、世界を変えましたが。

クレイグ・ピアース:そうだね。いくつかのことの組み合わせであり、政治的なことなんだ。なぜなら、彼らが何に反対していたのか、彼らが何と戦っていたかを語るのは重要だと思うからだよ。それに光を当てることは重要だと思う。そして、ある特定の文化や、特定の時代のいわゆる忘れ去られた世代に耳を傾けるのは重要だということを、社会に思い出させるためにね。

なぜなら、これらの人々は声を持つべきだからだ。または、危険を覚悟で、彼らを無視するんだ。なぜなら最大の活動と革新は、闘争から生まれるからだよ。だから、社会がすべてをロックダウンして、何も変えようとせず、怖がるようになるとき、社会は停滞し、権威主義的になり、中から腐敗し始めるんだと思う。僕たちの歴史を通して、そういう多くの例があるよ。

また、クリエイティブなレベルで、そういったことはクリエイティブ的に僕を魅了した。なぜなら、スティーブの話は、このストーリーの中心にある(全体をつなぐ)感情的な糸となる素晴らしい話だからだよ。また、より広いストーリーを語る方法でもあった。

なぜなら、感情的なアンカー(支えとなるもの)を持った興味深いキャラクターがとてもたくさんいるからだ。僕たちみんなが知っているように、そういう感情的なアンカーが、感情的レベルで僕たちを夢中にさせ続けるものなんだ。もしそれ(物語)があまりに広がり過ぎていたとしてもね。僕たちには、ストーリーに対して惹きつけられるものが備わっているんだ。すべてがストーリーなんだ。そうだよね?政治、宗教、家族。すべてがストーリーだ。あなたの頭脳は、「どのストーリーを追いかけよう?」と考えている。

「僕はこのストーリーをフォローしよう」とか、「おお、違うぞ。このストーリーじゃない」とか、「もしあのストーリーをフォローしたらどうだろう?いや違う。あのストーリーじゃない」となるんだ。それは少し恋人みたいなんだよ。「僕は彼女たちとはもう終わりだ。彼女たちは僕の電話を決して返してこない」といった感じなんだ。

多くのストーリーを語るためには、中心となるストーリーが必要だ。僕たちのアメリカのプロデューサー、ゲイルが僕に伝記を送ってきたんだ。それが、まず僕をとても夢中にさせた。それに、僕はずっとあの時代やパンクが大好きだった。それはエキサイティングでダイナミックだといつも思っていたんだ。僕が子供の頃、パンクは、本物であることのキャッチフレーズだった。だから、本当にいろんなことの組み合わせだったんだよ。