ジョニー・ロットンの英語は、自分にとって子どもの頃から聴いてきたフランク・シナトラやエラ・フィッツジェラルドのそれとはあまりにも違うものだったので、ロクに聴き取れなかった。そうなると余計に聴き取り、知りたくなるのが人情というもの。おかげさまで“ライアー(嘘つき)”、“サブミッション(服従)”、“ノー・フューチャー・フォー・ユー(おまえらに未来はない)”など、学校では教えてくれない言い回しをずいぶん学んだ。“アンティ・クライスタッ”、“アナーケスタッ”などの発音も、ものすごく邪悪に感じられて最高だった。
新しい音楽と新しいファッションは手に手を取って歩む。1950年代にエルヴィス・プレスリーのリーゼントヘアと腰使い、60年代ビートルズのマッシュルーム・カットと襟なしスーツ、では70年代の申し子ピストルズはどうだったのか。彼らの仕掛け人であるマルコム・マクラーレンは先に触れたようにブティック「SEX」の経営者、そこで洋服を販売していたのがデザイナーのヴィヴィアン・ウエストウッド。2人の美意識が、ピストルズの視覚面を決定づけたといってもいいはずだ。
ライダースジャケット、スキニーパンツ、ネックレス、安全ピン、バッジなどなど(にらみつけるような目線や、ゆがませた口元も含めて)、なんてピストルズはスタイリッシュな連中だったのかと思わせる。印刷物などにおける、グラフィック・デザイナーのジェイミー・リードによる貢献も実に大きい。
活動期間は1975年秋から78年上旬までの2年そこそこ、残されたオリジナルアルバムは『勝手にしやがれ』の1枚しかない。彗星のごとく登場し、賛否両論を集めながら時代を駆け抜けて、今なお音楽、ファッション、カルチャーの世界に多大な爪痕を残すセックス・ピストルズ。稀代のトリックスター・バンドが持つ、こにくらしいほどの妖しい輝きはこの2022年においても有効であるはずだ。
※スティーヴ・ジョーンズ(ギター)とポール・クック(ドラム)が1972年に結成したバンドが母体。74年にグレン・マトロック(ベース)、75年にジョニー・ロットン(ボーカル)が加わり、セックス・ピストルズとして活動を始めた。
◆文=原田和典
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