【漫画】「アパートの一室で切腹しようとした」“生きづらさ”と戦いつづけた作者の半生に共感する人続出

2022/08/13 10:00 配信

芸能一般 インタビュー コミック

子供ができて「与えてもらう立場から与える立場になる」ことを意識するように

「腹を切って死のうとした話」より画像提供/武村沙紀

――「腹を切って死のうとした話」を描いたきっかけがあればお教えください。
現在はカナダ暮らしのエッセイ漫画を描いているのですが、今になって過去の体験を明かそうと思ったのは、子供ができたからです。ひとつの章が終わり、次の章を始める覚悟みたいなものをしたくなったんです。

――お子さんが産まれる前に、過去を振り返る必要があった?
子供という明確な未来を育てることに、いよいよ与えてもらう立場から与える立場になることに今までとは違うことが始まると感じたんです。今まで私は心で動きまわり、自分勝手に生きてきました。そのたびに多くの方に優しさをもらい、人の輪の中で生かされてきました。私は人から優しくされるとすぐ恩返しをしようとしてしまうのですが、ある人にお返しをしようとしたら「それは自分ではなく次の人に渡してくれ」と言われて、痺れたというか、ハッとしたんです。私の中には今まで会った人たちの優しさがあって、それを人に渡すこともできるんだ、もらうばかりではなく私からも渡すことで、優しい輪を広げたり繋げられるんだ、と気付きました。そういった経緯があり、過去の体験を明かすことで、誰かに何かを渡せたらと思いました。

――漫画作品とは言え、自身の過去や心の内を赤裸々に曝け出すというのは勇気が要ることだと思うのですが。
心の内を下手に隠したり、嘘をつく方が私にとっては後悔が大きいです。曝け出したほうが何かあっても何を言われてもそれが真実なので、しょうがないとスッキリしていられます。見せるなら見せる、食べてもらえるなら全部いてまえ! という気持ちです。一方で、実生活では友人に「たけさん(武村さん)は自分のことをあまり話さない」と言われたりします。それは、自分が話すよりも人の話を聴くのが面白くて好きだからというのと、自分の話はもう自分が知っていることで(笑)、自分の話なんておもろいんか? と疑っているところがあるからだと思います。だから、喋っている最中に人の意識が自分に向いているのに気付くと「まずい!この人の貴重な時間を私のおもろいんかおもろないんかわからん話に使っている!」と焦って喋るのがむっちゃ下手くそになります。その点、漫画を描くことは自分との対話なので焦ることもなく、自分のペースでできるのが良いです。喋るのが苦手なので作品で出す、みたいなものかもしれません。

――今作を描く上で特にこだわった点や、「ここを見て欲しい」というポイントがあれば教えてください。
「評価」「成果」「社会的価値」を求めて結果に執着していた人間が、自分にしか見えない、頼りない心から生き直すところです。自分で自分を好きになり、精神的な自立に向かう心の動きを見ていただけたら嬉しいです。

――「共感した」「生きる勇気をもらった」などのコメントが多く寄せられていますが、そういった反応をどう捉えていますか?
(自分と)似た人はいる気がする…くらいに思っていたので、予想しなかった量の反響にかなり驚きました。「描いてくれてありがとう」と言われた嬉しさと、今苦しんでいる人が沢山いることの両方に泣きました。描いたものは公に発表した時から私の手から離れます。手から離れた作品が、こんなに沢山の人に届いたこと、心で受け取ってもらえたことがありがたかったです。