このドラマは、ピストルズのオリジナル・メンバーで現在もギタリストとして活動するスティーヴ・ジョーンズの自伝が基になっている。どうしようもなくアウトサイドな人生を歩んでいた彼がマルコムからギターを手渡され、ストゥージズ(1960年代に米国デトロイトで結成されたバンド。パンクロックの先駆けといわれる)のレコードを参考にしながら、ドラッグの力を借りて数日間寝ずに楽器をかき鳴らしてつかみ取ったパンクロックギター奏法の奥義。このシーンは、スティーヴ役のトビー・ウォレスにとっても快心の出来であったろう。実際、トビーは本物のスティーヴからギターのレッスンを受けたという。
が、僕にいわせると、初期数話のストーリーの核となっているのは、敏腕マネジャーであり、プロデューサーのマルコム・マクラーレン。第1話で、スティーヴが刑務所行きになりかけたところを、“彼の雇い主”だと言って現れ、弁舌巧みに裁判長を丸め込んで救い出したり、スティーヴをボーカルからギターに配置換えし、海の物とも山の物ともつかぬジョニー・ロットンを新たなボーカルに迎えたりと恐るべき抜け目のなさで、ピストルズの4人を操り、ロック界をスキャンダラスに駆け抜けてゆく。
彼を演じるのはトーマス・ブロディ=サングスター。まだ32歳ながら、11歳の時には子役として活動を始めていたという若きベテランだ。映画「ラブ・アクチュアリー」(2003年)の恋する少年役・サムで、日本でも一気に人気が高まったはずだが、その他にも個人的に印象に残っているのは少年時代のジョン・レノンを描いた映画「ノーウェアボーイ ひとりぼっちのあいつ」(2009年)で、ジョンの盟友、ポール・マッカートニーをみずみずしく演じていた姿だ。
そのトーマスが、今度はビートルズを“過去の陳腐な音楽”的に唾棄するバンドのマネジャーに扮している。本作のオンラインプレスデーに行われた会見で、トーマスは「僕にとって、これほど常識外れな人物を演じたのは初めて。彼はすごく注目を浴びていて、しかも実際かなり狂気じみていた。だからこそ、そこに説得力を持たせてリアルに見せようとする試みは、正直とても楽しいチャレンジだったんだ」とコメントしていたが、その“楽しいチャレンジ”の結果、彼が新境地を開き、新たな魅力が引き出されたといっても良さそうだ。
主役も脇も音楽も、セリフもみんな面白いから、時間があっという間に過ぎる。実際のスティーヴとクリッシーはドラマで描かれているほど心を通わせていたわけではなく、セフレ以上の関係ではなかったとも伝えられるが、“思い出補正”を加えるのは原作者の特権であろうし、スティーヴはそれを活用したに過ぎない。誰だって自分の人生は自分を際立たせたいじゃん?
◆文=原田和典
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