一方、兄のスヒョンは、打って変わって喜怒哀楽豊かで人間的なキャラクター。中央地検特捜部の検事で頭の回転は早いがケンカっ早く、納得できなければ上司でも徹底的に論破する。
初回でスヒョンは、女性記者キム・ソヒ(イ・スギョン)に「イ・チャンウは犯人ではない。真犯人は別にいる」と持ち掛けられ、逆上。怒鳴り散らして追い返すが、彼女が置いていった資料を読むうちに、真実を追い求めたい衝動に駆られていく。
顔はそっくりだが性格は真逆の2人を実に自然に演じ分けるチソンに誰もがくぎ付けになること間違いなしの立ち上がり。初回には2人が会話する場面もあるが、表情や視線の動かし方、語り口など醸し出す雰囲気は完全に別人。冷静沈着な弟と気性の激しい兄の兄弟げんかのような言い合いに引き込まれていく。
今作で一人二役を見事にこなすチソンだが、その演技力の高さはこれまでのキャリアですでに折り紙付きだ。
2013年のドラマ「秘密」で、恋人を事故で失い復讐(ふくしゅう)心を燃やす青年チョ・ミニョクを演じ「2013KBS演技大賞」最優秀演技賞を獲得すると、2015年の主演ドラマ「キルミー・ヒールミー」では多重人格者役に挑んだ。
この作品が、チソンの演技力の高さを端的に証明する代表作の一つになった。お人好しな主人格ドヒョンに加え、酒好きのおじさんや自由奔放な高校生、主人格との入れ替わりを狙う攻撃的なキャラクターなど7つの人格を完璧に演じ分けるという神業をやってのけ、同年の「MBC演技大賞」で大賞をはじめ12冠を達成する快挙を成し遂げた。
日本でもリメイクされ話題になった「知ってるワイフ」のオリジナルでは、恐妻に怯えてオロオロする軟弱な夫・ジュヒョクをチャーミングに演じ、こちらも大ヒット。かと思えば「悪魔判事」(2021年)では、正義か“悪魔”か本性が最終話までつかめないミステリアスな裁判官カン・ヨハンを圧倒的なカリスマ性で演じた。
こうした作品も含め、出演する作品で視聴率不敗神話を更新し、“視聴率保証俳優”ともいわれるチソン。「アダマスー」は、その卓越した演技力が“二役”で存分に味わえるぜいたくな作品だ。正反対の2人がそれぞれのやり方で身の危険をかわしながら真実に近づいていく――そのスリリングな攻防をじっくり堪能したい。
◆文=ザテレビジョンドラマ部
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