NHKではこれまでにも試行錯誤を重ねながら、多くの取り組みを実施してきた。その中の1つが、ポータルサイト「自殺と向き合う」の運営だ。後藤Dが普段担当している福祉番組「ハートネットTV」(NHK Eテレ)が2008年に立ち上げ、現在に至るまで運営してきた。同サイトでは常時「死にたい」「生きるのがつらい」という気持ちに関する投稿を募集しており、つらい気持ちを抱えてアクセスしてきた訪問者は自分の気持ちを吐き出すことができるほか、同じような思いの人の経験談や死にたい気持ち、それでも生きている理由などを読むことができる。
「私は5年半ほど『自殺と向き合う』に関わらせていただいています。担当になった当時は投稿数が約4000件ぐらいでしたが、現在では年間で2万件を超える数の投稿を頂くようになりました。それは、死にたいと思う人が増えたというよりも、『誰にも言えなかったことも、ここへなら書いてもいい』と思っていただける人が増えたのかもしれない。その意味では、やってきた価値はあったのではないかと思っています」(後藤D)
後藤Dは「自殺と向き合う」に声を寄せた当事者の取材を長年継続しているが、1人1人と長期間向き合っていく中で、ある気づきがあったという。
「当事者の方約20人とずっとお付き合いをさせていただいているのですが、取材する中で、『“死にたいと思うこと自体を否定されている”からこそ、より死にたい』といった思いをお聞きして。実際、今の社会では『死にたい』と口にした瞬間に否定されたり、みんなそうだよとたしなめられたり、孤立することになると思います。だからこそ、死にたいと思うこと自体を否定しない物語を作りたいと思いました」(後藤D)