作詞のセオリーを飛び越えて感情の高ぶりを優先させたという「魔法のアト」は、切ない思いが胸に迫るバラードだ。ピアノ伴奏を軸としたシンプルなサウンドに乗せて情感豊かに歌い上げており、ボーカリスト、ビッケブランカの表現力が際立つ1曲と言えるだろう。この楽曲は、演技という彼にとって新しい扉を開けたことで生まれた曲なのだという。
「この曲はドラマ『個人差あります』の挿入歌として書き下ろしました。僕はドラマのなかで、シンガー・ソングライターのチェルキーとして出演していて、チェルキーとして劇中でこの曲を歌っています。だから、チェルキーの性格や想いを…僕はアーティストとしていろんなことを考えて生きる癖がついているので、彼が感じているであろうことを最大限理解したいと想像を巡らせつつ、自分の考えも重ねて歌詞を書きました。
『ドラマの中でチェルキーが歌う曲』を前提に書いてしまうと、そこに描かれるメッセージが限定されてしまいますからね。そんなふうにいろいろと考えながら歌詞を書いていくうちに、この曲には余計な音はいらないなと。アレンジは最小限にして、声とピアノを活かすことにしました。
演技という新しい挑戦は楽しかったけど、想像していたよりずっと難しかったです。映像を見返すと『なんじゃ、この大根』って(笑)、誰にも見せたくない気分です。監督はOKをくれたものの、自分で思っていたところに到達できていなかったというか。ただ、音楽もはじめはうまくできなくて、試行錯誤を繰り返して今の自分になれました。もしまたお芝居を求められたら、同じようにしていくだけです」
歌い上げるようなバラードに限らず、ボーカルをレコーディングする際はいつも肩に力が入ってしまうという。リラックスした状態で歌うために、ビッケブランカが取っている秘策とは?
「レコーディングでは、いつも知らぬ間に気合が入っていて、それが力みにつながってしまうことが少なくありません。力が入ると喉もしまって固くなるし、聴力もわずかながら落ちる感覚があるので、できる限りリラックスして歌いたいなと思っています。僕の理想は、自宅で録ったデモ音源。なので、スタジオでも自宅で録っているときみたいにテーブルに肘をついて、座りながら携帯で歌詞を見て歌っています(笑)。
デモが最高と言うと、不思議に感じるかもしれませんが、僕は最高を生むのは気合いじゃなくて本性だと思っていて。偶然の産物というか、コントロールとは別のところで最高は生まれると思っているから、力まずに素が出せる自宅で作った歌が自分の最高峰だと感じるのかもしれません。もちろん、その前にはどんな声で歌うか、どの部分はどう歌いまわすかなど、細部にまでこだわって徹底的に選び抜いています。緻密さを通り越した先の、心持ちから生まれる歌が歌えるよう事前にやれることは全部やる。
そして、レコーディングの本番では、スタジオでも自宅と同じようにダラダラして過ごして、他愛のない話をして力みを取っていく…。それはいい歌のためにやっていることですが、スタッフには『ただ、サボってるだけでは?』ってかなり怪しまれています(笑)」
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