昨今、登場人物が誰かと出会うことで自分の内面に向き合い、気持ちを表に吐き出し、自己を解放できたり、そのことで変化する過程を描いた作品には、良作が多いように感じる。
例えば、30歳の誕生日に触れた人の心が読めるようになった主人公が、自分に好意を寄せている同僚の思いを受け取り、お互いに前に踏み出す様子を描いたドラマ「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」「チェリまほ THE MOVIE~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」も、そうした作品である。
Netflixで配信中の韓国ドラマ「私の解放日誌」も、ソウルの郊外から1時間以上かけて通勤する毎日を送りながら、どこか周囲との関係性にぎこちなさを感じたり、生きている実感を持てないでいたヒロインが、謎の男・クと出会ったり、会社で同じようなぎこちない気持ちを抱いている人たちと「解放クラブ」を結成したりする中で変わっていく話であった。
また「妖怪シェアハウス」(テレビ朝日系)シリーズでは、主人公の澪(小芝風花)が、つきあっている彼にひどいことをされても怒れず、自分を責めてばかりいたが、妖怪たちとシェアハウスで暮らすことで次第に自分の気持ちを吐き出し、怒れるようになる過程が肯定的に描かれていた。抑圧されていた女性が「怒り」を取り戻す様子に、解放とフェミニズムが感じられた。
「魔法のリノベ」では、男性の玄之介が小梅と出会ったことで、自分の気持ちを吐露できるようになっていくのだが、男性の場合、気持ちを吐き出し、怒ることができるという意味合いが、「妖怪シェアハウス」の澪とは少し違うところもあるだろう。玄之介が気持ちを吐き出すことが難しいのは、男性が弱さを認めにくいジェンダーとされていることの表れでもある。しかしその一方で「怒り」を得て暴力をふるったりしてしまえば、それは「有害」な方向に行きかねない。
玄之介がやっと弟の寅之介に対して感情をあらわにできたとき、彼は「お前からはもう奪われない。俺はもう前に進んでる。だからお前も先に進め」と言った。自分の正直な気持ちは吐露するが、単なる怒りにはしなかった。「自分は前に進んだ」と、解放はされるが暴力にはいかないのだ。弱さを認めて、気持ちを吐露し、前に向かうことが玄之介の「解放」であると繊細に描かれているところが、このドラマの良い点だろう。
そして小梅もまた、以前は自分の思いを吐露できない人であったとわかる。それは、友人の春川ミコト(SUMIRE)との「愚痴も心も山頂で叫ばせるまでに3か月かかったよ」という会話からうかがえる。葛藤を経て解放された小梅が、今度は玄之介を変えようとしているのである。
このドラマでは、依頼主と向き合い共に仕事をする中で、ときに個々の持っている葛藤が共鳴して変わりつつ、自然と情が生まれ、恋愛に発展するかも?という過程が描かれている。1話1話、お互いの距離感を丁寧に近づける様子が描かれているから、小梅と玄之介の行く末を見守りたくなるのである。
■文/西森路代
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