コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットな漫画情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、増村十七先生の「花四段といっしょ」(朝日新聞出版)をご紹介。主人公のプロ棋士・花つみれ四段は、色々考えすぎて空回ってしまいがちな若手棋士。対局中でも対局相手の年収、今日のお昼ごはんなど、雑念で思考が取っ散らかり…。Twitter連載が5000いいね以上を集めて話題となった本作は、6月にはコミックス1巻も発売された。将棋漫画というとストイックな対局の姿を描く作品が多い中、いわば“日常系”将棋漫画といえそうな本作はどのように生まれたのか、増村先生に聞いた。
――「花四段といっしょ」、Twitterの連載開始時から楽しく拝読しています。プロ棋界を舞台にした日常コメディ漫画という他にあまりない作品ですが、この作品を描こうと思ったきっかけは何ですか?
私は元々“観る将”(観戦中心の将棋ファン)で、2018年のコミティア(創作同人誌即売会)での無料配布用に佐藤康光九段の紹介漫画を描きました。それは将棋に興味がない、ルールにも詳しくない方に向けたつもりで、かなり砕けた感じで描いたんですが、ネットにアップしたら思いのほか将棋関係者の方の間でも拡散されて好意的に見ていただいて。その後、ちょうど前作(「バクちゃん」)の連載が終わるタイミングで、ネットに公開した漫画を見た編集者から「コメディの将棋漫画を描かないか」とご相談いただきました。最初は実在する棋士の紹介漫画とか、棋士の師匠と弟子の関係について描くといった案もありましたが、コメディを描くなら他の将棋漫画にない形にしたいので、トップじゃない棋士の話を描きたいと思いました。
――将棋漫画はストイックに勝負に挑む姿を描いた漫画が多い中、「トップじゃない棋士の話」にしようと思われたのはなぜですか?どんなところに面白さが出せると感じましたか?
コメディという前提があって、トップを競う戦いの話だと、どうしてもシリアスになるので…あと、将棋界ではまずプロになるための関門の三段リーグ突破がひとつのドラマなんですが、三段リーグを抜けた後は勝ったり負けたりという成績の棋士の方もたくさんいるんです。それで、トップ層ではない方にはいったいどういうモチベーションがあるんだろう、と興味がわきました。私自身も漫画界でトップにいるわけではないので、推測できる部分があると感じて。取材を進めていくと、トップ層以外でも色々な棋士の方が、将棋の普及など色々な仕事をして将棋界を支えているということがよくわかり、描きながらおもしろくなってきたんです。将棋は勝ち負けの厳しい世界ですが、それだけで成り立っているわけではないんですよね。
――なるほど。私たちはテレビでよくとりあげられる一部の方だけを棋士のイメージにしてしまいがちですが、もっと様々な棋士の方がいるということですね。
そうですね。印象深かったのが、将棋連盟の事務の方に取材したとき、「羽生(善治)旋風のときはいかがでしたか」とか「藤井(聡太)さんがすごいですよね」という話をしても、もちろんうなずいてはくれるんですが、そんなにテンションが上がっている様子もなくて。お話を伺ったら、広報もやりながら将棋連盟100年史の編纂をされているんだそうです。将棋界の外からは今騒ぎになっていることだけに注目するけど、将棋自体には400年の歴史があって、文化が続いているのは、目の前の勝負以外にも視野があるからなんだなと。あくまでも対局は将棋界の大きな要素のひとつにすぎないんです。
あと、私の作品は以前から潜ませた小ネタを面白いと言ってもらうことが多かったので、小ネタをメインにしてみたらどうなるのか試してみたかったのもあります。
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