2020年4月より放送開始したテレビ東京の0~2歳児向け番組「シナぷしゅ」(毎週月~金曜朝 7:35~8:00ほか)は、レギュラー放送3年目となり、すっかり子育て世代の間に根付いたといえよう。企業コラボにも積極的で、今秋で第4弾を数えるGU babyコラボをはじめ、食器や小物といった子ども向け商品、おもちゃや誕生日ケーキなど幅広く展開している。自身の出産をきっかけに、畑違いの営業局出身ながら 「シナぷしゅ」の企画を立ち上げた生みの親・飯田佳奈子プロデューサーに、ネット配信を中心にしたスタイルの手ごたえや、赤ちゃん向け番組で先行していたNHK Eテレとのコンテンツにおける差別化、ビジネス面での実績、今後の「シナぷしゅ」の野望まで聞いた。
――放送開始から約2年半となる「シナぷしゅ」ですが、企画者である飯田さんとしては現状の手ごたえはいかがでしょうか?
狙っていた以上の需要があったと感じています。「シナぷしゅ」が毎日の放送を無料配信している公式YouTubeのチャンネル登録者数は25万人を超えたところですが、最近では月1万人くらいのペースで右肩上がりに増え続けています。考えてみれば、毎年80万人くらい赤ちゃんが生まれているわけですから、「シナぷしゅ」のターゲット(0~2歳児)はこの世に常に240万人くらい存在するんです。だからゆくゆくはチャンネル登録者数100万人を超える可能性もあると思っています。
――テレビ放送したものをそのままネットで配信していつでも子どもに見せられるスタイルは、今の時代に合っていそうですね。
そう思います。やっぱり現代は大人の人手が足りない中で子育てしている親御さんが多いし、子連れにフレンドリーな社会になっているともいえません。外出先や電車の中で静かにさせなきゃいけない、といったピンチが訪れたときにサッと使ってもらえる。また昨年の冬から、YouTubeである程度まとまったコンテンツをループで流し続ける24時間ライブ配信をしているんですが、始めてから一度も視聴人数がゼロになったことがないんです。どんな深夜でも必ず100人くらいは見ている。すごく驚きました。裏を返すと育児って休憩時間がなくて、夜中に授乳しながらとか、お子さんが夜泣きしちゃってとか、24時間365日、日本のどこかで奮闘している親御さんがシナぷしゅを頼ってくれている。コメント欄にも「夜中に見ているのが自分だけじゃないと思える安心感がある」という声があって、現代の子育てらしい、ふんわりした支え合いの空間を作れているのかなと思います。
――乳児向け番組というと、「シナぷしゅ」が生まれるまではNHK Eテレの一強状態だったかと思います。番組を作る上で、参考にした部分はありますか?
実際私の周りでも、子どもを産んだとたん「Eテレ最高!」みたいになる人が多かったです(笑)。ただ、Eテレさんを番組作りの参考にはできなかったですね。予算とスタッフ繰りが全然違いますから…(笑)。だから内容的には意識しないようにしました。意識して勝負しようとしても、とうてい真似できるものでもないので。
――では「シナぷしゅ」らしさはどんなところにあると思いますか?
最初にテレ東が乳児向け番組を作ると発表したときから「テレ東らしい番組を期待しています」という声を頂きましたが、当時は「テレ東らしさ」が何なのかわかりませんでした。「独自路線」という言葉が近いのかもしれませんが、私たちはあまりそれを意識して作ってきているわけではないんです。でも「シナぷしゅ」を続けてきて、ファンの方々との間で「『シナぷしゅ』み」という概念が生まれてきたんです。多分それは、つるつるに研ぎ澄まされていない、リアルなものを出せているということなんじゃないかと。
――リアルというと?
これは視聴者の方からご指摘いただいたことなんですが、番組内のアニメに飛んできた蚊をパチンとつぶすシーンがあって、それを見たお子さんがびっくりして泣いちゃったそうなんです。Eテレさんだとおそらく蚊ですら殺生はしない。でも私たちは日常生活で蚊を殺している。その視聴者の方は、アニメをきっかけに蚊を殺すことについてお子さんと話し合えたから、素直に描いてくれてうれしかったと言ってくださいました。Eテレさんは皆元気で明るい世界、ある意味テーマパーク性のある世界を提供されているように思いますが、日常生活って常にそんなに元気じゃないし、時々その絶対的な“陽”にあてられるときもある。「シナぷしゅ」は「怖い」や「悲しい」も含めて荒削りのまま、人生のリアルな部分を出していければと思っています。
――なるほど。また、災害や悲惨な事件があった際など、ニュースで精神的ストレスを感じるのを避けるために「シナぷしゅ」などを見るといいというライフハックがSNSで拡散されたりします。ターゲット層以外からのニーズもあると感じますか?
そうですね。それこそ「シナぷしゅ」は放送開始時から緊急事態宣言下で、コロナ禍で皆さん家に引きこもっているストレスがある中で、かつて赤ちゃんだった方々にも朝の時間の癒しとしてご覧いただいている実感がありました。赤ちゃん言葉で話しかけるようなコンテンツは作らないと決めているので、大人の方にも楽しんでいただけると思います。以前小耳に挟んだのは、ご老人の方にもよく見ていただけているそうです。おじいちゃんおばあちゃんが入院している病院でシナぷしゅが流れているとか。情報量が多くないので、高齢の方にもゆったりした気持ちで見てもらえるんですよね。あとは障害のあるお子さんをお持ちの親御さんからも「夢中になって見ています!」とコメントを頂くことが結構多いです。思いがけないところから反響があるのはうれしいです。
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