【漫画】「幸せな女性の物語が読みたい」美容×おばあちゃん×百合、唯一無二な作品が生まれた理由に感動

2022/09/16 08:30 配信

芸能一般 インタビュー コミック

メイクが実現するエンパワメント「自分を奮い立たせてくれる」

家族や世間の言葉に気持ちを削がれてきたはな代(C)schwinn/KADOKAWA


「はなものがたり」では、亡き夫や世間から聞かされた“みっともない”という言葉に縛られ美容を避けていたはな代が、芳子のすすめで美容の楽しさに目覚め、しがらみから自由になっていく姿が描かれている。メイクとは、ときには強制的に押し付けられる規範にもなり得る一方で、本作のようにエンパワメントのツールにもなる。schwinn先生の思うメイクとは何なのだろうか。

「私は体質的な理由と、めんどくさがりな性格とで、日常的にメイクはしていません。でも、何かイベントごとや頑張りたいことがあったときに、自分なりに洋服を工夫したり、それに合わせてメイクをすることは大好きです。何かハレの日の儀式みたいな、いつもと違う特別感を感じてわくわくします。映画を観たり本を読んだり音楽を聴いたり一人旅をすることも好きなのですが、メイクもそれらと同じように、自分を癒し、自分をケアし、奮い立たせてくれるもののひとつです。

ただ、今の私の生活環境がそれを許してくれているので、もし毎日義務的にメイクをしなければならないような仕事に就いていたら、そんなにメイクが好きではなかったかもしれません」

芳子の言葉がはな代を解放する(C)schwinn/KADOKAWA


確かに「はなものがたり」作中でも、はな代は芳子の手ほどきのもと、自分で選択した新しいメイクを通じて新たな自分を見つけ、人生への希望を感じていく。メイクでなくてもそのような解放を感じた経験はあるか、schwinn先生に尋ねてみた。

「大学に入学したときでしょうか。作中で芳子さんも感じていたことですが、授業や読書を通じてさまざまな人の生き様や価値観に触れて、『これは自分だけかもしれない…』と思っていたことが、実は古今東西で大勢の人が考えてきたことだとわかったり、物事に対してさまざまな方向からの分析の仕方を知ることで、ある点から見るとくだらないものでも、別の視点から見てみると素晴らしい要素があると気づいたり。世の中は自分が思っていたよりすごく複雑で、ひとつの見方に固執しなくてもよいのだと知ると、ものすごく気楽になった気がします」


女性と女性同士の絆に絶対的な信頼

はな代の背中を押す孫の莉子(C)schwinn/KADOKAWA


「はなものがたり」のもう1つの大切なポイントが「百合(女性同士の恋愛)」だ。フィクション作品では数少ない高齢女性同士の恋模様を描くのは、フィクション・現実共に未だに存在する「女性は若いうちしか価値がない」という価値観へのカウンターとも読み取れるが、そういったねらいもあるのだろうか。

「それよりも、自分が読みたい話を描いたらこうなった、ということに近いと思います。というのも、私自身がそろそろ若くなく、百合にしても、もちろん学生同士の作品で素晴らしいものはたくさんありますが、私自身の興味が自分に近い大人同士の百合にうつっていて、自分が描くならやはり大人の物語がいいなと。

大人も漫画を読む時代ですし、描き手もしかり。社会人を描いた百合も昔に比べて増えているように感じますし、ジャンル問わず中高年が主人公の漫画も増えている気がして、読み手としても非常に嬉しい傾向です。自分が高齢者になったときにぷっつり漫画を読むのをやめているとも思えないですし、おそらく今漫画を読んでいる人たちもそうで、年を重ねるにしたがって興味関心が若い頃と違ったり広がってゆくのは、そして自分と似た登場人物を求めるのは、自然の成り行きのような気がします。

こうして少しずつ『女性は若いうちしか価値がない』というような価値観はおのずと薄まってゆくのではないかなあ、と思いますし、そうなるといいなあと思います」

ちなみに「はなものがたり」のタイトルは、吉屋信子による女性同士の友愛や恋愛を描いた名作少女小説「花物語」からとられている。「花物語」のファンだというschwinn先生に、魅力を語ってもらった。

「なんといっても、女性と女性同士の絆に絶対的な信頼を置いているところです。女性同士の絆について、『女同士の友情は浅い』『女同士はドロドロしている』のような、ちょっとしょんぼりしちゃうような評判はいまだにあると思うのですが、それは吉屋信子さんの昔から言われてきているようなのですね。『花物語』よりあとの作品ではよりはっきり、例えば夫が妻の交遊を取るにたらないもののように言い、妻がそれに反駁するというような描写も出てきます。

『花物語』を吉屋さんがお書きになられたはじめは、そこまで自覚的ではなかったかもしれませんが、女性と女性の間にめばえる感情のあれこれを決して取るに足らないものではなく、まったく気後れすることなく、ひとつひとつを豊かなドラマとして丹念にとりあげる筆致は、私にはいっそ真新しいものにうつりました。

なにより、ある女の子がある女の子に出会って天地がひっくり返るくらいの衝撃を受け、どきどきしたり思い悩んだり思いが通じたり、でも離れなくてはならなかったり、そうしたガールミーツガールの物語が世の中の花の数だけ読めるというのはとっても楽しい体験でした」

こういった「女性と女性同士の絆」への信頼は、「はなものがたり」にも垣間見える。