「はなものがたり」のはな代と芳子は共に60代だが、その描かれ方はいわゆる記号的な「おばあちゃん」ではない。新しい化粧品を試してワクワクしたり、淡い恋の予感にドキドキしたりと、みずみずしく繊細な感情が描かれている。
「自分よりかなり年上の2人を作っていくときに、『人は60代を迎えても根っこの部分はそこまで劇的に変わらないのではないか』という仮説がなんとなくありました。もちろん私はまだ60代になっていないので本当のところは分かりませんが、周囲の先輩たちを見ていても、いわゆるテンプレ的な『おばあさん、おじいさん』はいない。何より私自身がそこまで大人の自覚がない。ちょっとどうかと思いますが(笑)。私が大好きなバンドのメンバーも60代後半ですが、まだまだ現役で、ラジオでもいまだに彼らが出会った学生時代のまんまのくだけた会話をして笑い合っている。
自分がまだ経験していない年齢の人物を漫画の登場人物にすえるということで、ちゃんと描けるのだろうかという不安はもちろんありましたが、いっそ思い切って、今の自分とそこまで変わらない感覚でやってみようか、と思いました。もちろんスマホを見るのにメガネが必要だったり、立ち上がるときによっこらしょ、とかは言うと思いますが、恋をしたら一人で一喜一憂したり、ちょっと妄想してみたり、内面的な部分はあまり考えすぎないで思ったままを描くようにしています」
2人のキャラクターを作っていく上で心がけたことや、2人それぞれの魅力的な点についても聞いた。
「はな代さんはお茶目で、基本的には楽観的で、素直な人。進学や結婚のたび、自分を変えたり我慢を繰り返さなくてはならなかったわけで、その良し悪しはともかく、とにかくここまで乗り切ってきたという点においてはすごい人だな、とも思います。
芳子さんは自分の感覚を大事にしている人。自分の仕事にも独自の解釈をもって臨み、一見クールですが、他人のために怒ったり笑ったりできるフランクな面もある。
SNSで1話をアップしたときに、おそらくはな代さんたちと同世代の方が「おばあちゃんたちを可愛く(外見的な事でなく)描いてくれてうれしい。おばあちゃんになっても急に老け込むわけじゃないからね」というような感想をつぶやいておられ、「あ、私はそこまで大間違いをしていないのかな、よかった」と胸をなでおろしたことがあります。
私はこれからはな代さんたちの年齢に向かっていくわけで、歳をとっていくことではな代さんたちのキャラクター造形の答え合わせが身をもってできるので、歳をとる楽しみが増えました」
女性の物語を描くのは今回が初めてだというschwinn先生。百合とBLでは物語を作る上で意識することの違いはあるのだろうか。
「BLは、自分と性別が違う人たちを描くので、できるだけ知ったかぶりをしないように、失礼のないように。百合は、と言えるほど描いていないので…今『はなものがたり』で意識しているのは、BLよりかは自分とぐっと近い人たちを描いているので、それで慢心して知ったかぶりをしないように、失礼のないように。
とは言っても、もちろん完璧にはできないのですが、できないなりに、それでもぎりぎりまで知ったかぶりをしないように、なるべくキャラになりきって考え続けるようにしています。こうしてみると何を描くときでもあんまり姿勢に違いはないかもしれません」
最後に、これからの「はなものがたり」がどうなっていくのか、この先描いていきたいものを聞いた。
「『幸せな女性を描きたい』というのが発端ですので、「はなものがたり」のお話がどう進んでいっても、はな代さんも芳子さんも他の登場人物も、幸せに毎日の生活を謳歌していくだろうな、と思います。大きな事件が起こらなくても、日常のこまごまとしたことを大切に、そして何よりはな代さんと芳子さんのせっかくできたご縁を大切に、描いていきたいなと思っています。
この先描いていきたいもの…。私はまだ漫画を描き始めて5年ほどと日が浅いので、いろいろ欲はあります。今までとガラっと変えた非日常的なものとか、恋愛ものじゃなくてバディものもいいなとか。でも、とにかく人の表情を描くのが好きなので、どんな題材を描くにしても、人間同士の関係性を大切に描いていきたいなと思います」
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