【漫画】「たべないで」意味がわかると怖い。双子の兄を独占したい弟の“歪んだ愛”を描く漫画の切なすぎるラストが話題

2022/09/20 18:30 配信

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体が突然スライム状に…梅ノ木びのさんの『どうかしてる兄』が話題画像提供/梅ノ木びのさん

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、作者・梅ノ木びのさんの『どうかしてる兄』をピックアップ。梅ノ木びのさんがこの作品を2022年8月17日にTwitterに投稿したところ、2.1万以上(9月13日現在)の「いいね」が寄せられ、反響を呼んだ。この記事では、梅ノ木びのさんにインタビューを行い、作品に込めたテーマや創作の裏側についてを語ってもらった。

兄を羨む弟のドロドロとした“欲望”を描く本作 予想外のラストも話題に

『どうかしてる兄』より画像提供/梅ノ木びのさん


アパートの一部屋に同居し、同じ大学に通う双子の兄・タマリと弟・ユラギ。ある日、突然タマリだけ全身がスライムと化してしまう。時々は人の形に戻るも、ストレスを感じると形を保てずまたスライムと化すタマリに、ユラギは毎日食べ物を与えたり、何度もかかってくるタマリ宛ての電話に対応したりと面倒を見ながら、タマリとの生活を楽しんでいた。社交性があって誰にでも優しいタマリを羨ましく思う気持ちから、“双子”であることに対して強いコンプレックスを抱くようになっていたユラギ。その思いが日々強くなるなか、スライムと化して外出さえままならず、他人との交流が途絶えたタマリをユラギはこのまま独り占めしたい衝動に駆られていた。

ある日、タマリの恋人・みおが本人と連絡がつかないことを心配して部屋を訪ねてくる。ユラギは玄関で追い返そうとするも、みおはタマリの声を聞いて急いで部屋に上がる。スライム状のままみおに覆いかぶさったタマリは、二人を離そうとするユラギの手を拒むかのように弾き叩き、あっという間に固形化してしまう。ユラギはタマリに拒否されたことにショックを受けるも、何度も水を掛けて元の状態に戻そうと奮闘する。次の瞬間、スライムが暴れた衝撃で台所の蛇口が壊れ、部屋が水浸しになったことでスライムはタマリの体から完全に分離し、タマリは人間の形へと戻っていた。

みおを大切に抱きしめ、助かったことに安堵するタマリ。その様子を見たユラギは「タマリと一緒になりたい」「誰にも渡さない」という強い思いを持ったまま、タマリから分離したスライムに手を伸ばし…。

変幻自在のスライムをモチーフに、弟・ユラギの兄に対する羨望心や“ぼくだけを見てほしい”という独占欲を切実に描いた同作。Twitter上ではラストシーンの考察も相次ぎ、「すごく見入ってしまった」「好き」「めっちゃ面白かったです」「独特の雰囲気」「考えさせられました」など、読者からのコメントが寄せられて注目を集めている。

“欲望”を突き詰めて見えてくる「怖さ」を物語に 作者・梅ノ木びのさんが創作の裏側を語る

『どうかしてる兄』より画像提供/梅ノ木びのさん


――『どうかしてる兄』はどのようにして生まれた作品ですか?

映画が好きでたまたま人を呑み込む殺人アメーバの作品と結合双生児の作品を観たので、捕食によって同化する“何か”に襲われて同化する双子の怖い話やってみたいなと思ったのがきっかけです。(アメーバよりスライムの方が親しみやすいので伸縮自在のスライム状の生き物にしました。)

タイトルには様子がおかしいという意味の“どうかしてる”と“同化”がかかっています。

――『どうかしてる兄』では、弟・ユラギの鬱積した感情が随所に描かれていました。本作にはどのような思いが込められているのでしょうか?

ユラギは双子の片割れに強いコンプレックスを抱いているキャラとして描きました。社交性とか性別とか、ユラギ自身が自信のないものに兄のタマリは悩まないのが羨ましくて悔しくて、もしかしたら双子じゃなくひとりの人間として生まれてたら完璧だったかもしれない…そう思うほどタマリを独り占めしたいと考えるようになってしまう。作品のストーリーは奇妙ですが、そういった感情を抱いた事がある方は多いんじゃないかと。だからこそ物語でその欲求を叶えてみたいなと思いながら描きました。

――『どうかしてる兄』はラストまでの展開を含めどのシーンもとても印象的でしたが、梅ノ木びのさんが特に気に入っているシーンやセリフはありますか?

色々と思い入れがあるのはユラギが兄のスライムを飲み込もうとして吐き出すシーンです。作画中にスライムを買ってみて、触ってるとジュースみたいな色やぷるぷるした感触に段々と美味しそうになってくるんですけど実際には食べるものじゃないので思い留まるんです。駄目なんだけどついやってみたくなるという衝動を、ユラギが兄を自分だけのものにしたいという衝動に重ねた行為にしました。“食べてしまいたいほど可愛い”とか、“同物同治”とか、そういったタブーに踏み込んだ愛情表現には惹きつけられる魅力があると思います。

――梅ノ木びのさんは、短編集『惑わせる女たち』や現在連載中の『インク色の欲を吐く』など、人間の様々な“欲望”を毒々しくも美しく描き出す作品が特徴的に思えます。物語を創作する際のこだわり、または特に意識していることはありますか?

“欲望”という衝動には“怖さ”が付き纏うと思っています。ホラー映画が好きなのもあって怖さには不思議な快感があると感じていて、人の欲望・欲求といったものに触れる瞬間が怖くて面白いんです。そんな感覚を自分の作品でも味わって貰いたいなと思ってます。

こだわりという点では“欲求”とそれに付随する“行為”は千差万別なので、何がしたくてどうするかを考えて紐付けるようにしてます。例えば好きな子にキスをしたいという単純明快な欲求と行為であっても、どんな子の何が好きでどこにどんなキスをしたいのか…等と突き詰めたらそこには思いもよらないフェティシズムや葛藤があるのかもしれません。そこを丁寧に突き詰めて考えると“怖さ”が見えてくるので、そういう感覚を損なわないように物語に組み込むようにしてます。

――今後の展望や目標をお教えください。

まずは今連載中の作品を無事走り切りたいです。初連載なので必死になって描いてますが楽しいと思いながら続けて行きたいです。

――作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。

現在は19世紀の天才画家オーブリー・ビアズリーをモデルにした『インク色の欲を吐く』という作品を描いてます。早逝でありながら欲深く生きた芸術家をこだわりと向き合いながら描いてますので是非続きを楽しみにして頂けたら嬉しいです。怖い話もまた沢山描きたいですね。