何度も胸をときめかせた、人気シリーズが教えてくれたこと。『マスカレード・ゲーム』/佐藤日向の#砂糖図書館

2022/09/17 20:00 配信

アニメ 連載

佐藤日向※提供写真

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。
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最新刊が出るのを心待ちにする瞬間はいくつになってもワクワクするものだ。

今回紹介するのは、東野圭吾さんの『マスカレード・ゲーム』だ。「マスカレード」シリーズの1作目である『マスカレード・ホテル』からのファンなので、2011年からずっと追いかけている作品のひとつということもあり、最新刊が本屋に並んだ瞬間から本書を開き、読み終えるまで、終始胸をときめかせながらページを捲っていた。

これまで読んできたシリーズ作品に登場するキャラクターたちに久しぶりに出会えた懐かしさはもちろん、ホテル特有の優雅さの裏にある喧騒がこれまで通り描かれつつ、犯人を見つけ出すため奔走する新田の姿には、これまでのシリーズよりも冷静さが加わっているのが、「マスカレード」シリーズでは描かれてこなかった、新田の刑事生活における人としての成長が感じられて、読者としてはスピンオフも見てみたい気持ちが高まる描写が多かった。

本作がフォーカスを当てているのは"罪の意識"についてだ。被害を被った側は、つらい、悲しい、といった感情が年々濃くなっていく場合もあるし、相手から嫌なことをされた認識はなかなか消えない。反対に、被害を生み出した側は、「しょうがないよね」という言葉で片付けてしまい、罪の意識に囚われることなく自分の言動すら忘れてしまうこともある。正義とは何か、自分が正義と思い込んでいる行動は、ありがた迷惑なのではないか。自分の中に固定概念として染み付いてしまっているものを見直そう、と思わせてくれる作品だった。

本作で特に印象的に描かれているのは、ホテル側の信念と、警察側の守りたい正義の対立だ。これはどの職業にも当てはまるもので、私の場合は演者側のステージに対する信念と、制作側のステージに対する想いのすれ違いが当てはまると思う。第1作の『マスカレード・ホテル』ではお互いの意見を正面からぶつけあっていた彼らが、本作では曲げられない部分はどうすれば譲歩してもらえるか、自分が折れる部分を見つけて対応をしていて、学生ではない彼らが大人になってからもさらに成長をしなければならない状況は、今の私に強く刺さった。

私は昔から良くも悪くも頑固で、自分の意見を曲げる瞬間、というのは何度経験しても慣れないし、時には悔し涙を流すこともある。もう少し柔軟にまわりと接するべきだと言われてしまうことも多々あるが、こうして言葉を紡ぐ仕事を、本を通してさせて頂いているのだから、私も"言葉"を使って自分の意志をただぶつけるだけでなく、私の使う言葉次第で状況はきっと変わるのだろう。そう、本書から教えてもらえた気がする。まだホテル・コルテシアに足を運んだことがない方は、是非一度『マスカレード・ホテル』から足を踏み入れてみてほしい。

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