好きな食べ物はお好み焼きです。:エッセイ/小林私「私事です が、」

2022/10/01 20:00 配信

音楽 連載

美大在学中から音楽活動をスタートしたシンガーソングライター・小林私が、彼自身の日常やアート・本のことから短編小説など、さまざまな「私事」をつづります。

ビジュアル:小林私


好きな食べ物はなんですか?と聞かれた時に本当のところを答える人はどれだけいるのだろうか。

「好きな食べ物はなんですか?」の言外に「仕事の打ち合わせで使う店を決めるのですが、」という本心を感じられる程度には大人になってしまった。

私は偏食かつ少食かつ、苦手な食べ物の筆頭がネギ類とトマト類(ケチャップを含む)であり、これを含まない料理は日本にはほぼ無いと言っていいだろうし、海外には一切無いと言っていい。

好き嫌いがあるというと何故か野菜嫌いだと受け取られがちだが、別に野菜全てが嫌いなわけではない。キャベツは好きだしレタスも好きだ。でも白菜は厳しい。私にもよく分からない。

肉はきっと好きだろうと聞かれても、牛丼は食べることはあるけれどステーキのような分厚い肉は苦手だし、豚の生姜焼きには大抵玉ねぎが入っているし、鶏肉は焼き鳥は好きだけど骨付きとかよく分からない煮てあるやつみたいなのも苦手だ。一体どうしたらいい。

そもそも、食べたことのない料理と行ったことのない店が苦手だ。写真を見て食べられなさそうだなと思ったメニューはしっかり食べられない。「意外とアリ」とかもない。

しかし、他愛ない会話がしばらくして「さて、本題なんですが 」と...こういった形式の食事会にチェーン店があがることはなく、基本的には知らない料理を出す知らない店(しかも多分、高い)がほとんどである。

私とて、それだけ丁重に扱ってもらっている光栄を一身に受け止めたいのはやまやまなのだが、好きな食べ物を本当に答えてしまうと、

・チュロス(どこにもない)
・フライドポテト(どこにでもある)
・春巻き(ごく一般的なもの。良い店は中身で差をつけてくる)
・コーヒーゼリー(ごく一般的なもの。これを目的に来店する客を想定している店はない)
・海ぶどう、ナン(会食を行うタイプの店ではない)
・ファミマのカレー(ファミマ)

こうなってしまう。こんなことを答える奴はお呼びでないのだ。むしろ「そしたらコンビニで好きなもの買って公園とかで話しましょう」とか言われたら、好きになってしまう。それは困る。

そうした葛藤を抱えて、私は一つの正解を見出した。それがお好み焼きである。好きか嫌いかで言ったらまあまあ好き、くらいの料理だが、これには沢山のメリットがある。

大抵の場合、種類がいくつかあるので苦手なものが極力入ってないであろうメニューを選べる。高級なイメージはないので押し付けがましくなく、しかし鉄板焼きを兼ねた比較的高めな店もある。鉄板の世話などで店員の出入りが多いので仕事ゆえに微妙に生まれてしまう気まずい時間を埋めてくれる。分ける前提なので量にビビらなくていい。

素晴らしい料理である。デメリットを挙げるとすると、お好み焼きがある店のメニューに添えられていることが多い、もんじゃ焼きの存在だ。

個人的な意見だが、もんじゃ焼きは世界で一番テンションの上がらない料理とされている。単調なイントロがやけに長いと思ったらそういうインストゥルメンタルだったかのような盛り上がらなさを携えながら、「いや全然、美味しいんだけど。美味しいけど今じゃないよね。」といった絶妙な位置を占めている。個人的に次点に続くのはアイス。初っ端にキャッチーなサビがあって、残りは全部アウトロ。

いかがでしたか。お好み焼きが好きでない人以外には非常に有用な記事になったのではないでしょうか。そしてこれを読んでくださった各関係者の皆々様へ好きな食べ物はお好み焼きです。もんじゃ焼き屋で会いましょう。

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