コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットな漫画情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、seko kosekoさんの「マダムたちのルームシェア」をご紹介。登場するのは、“マダム”という呼称がぴったりの沙苗さん、栞さん、晴子さんの老年女性たち。3人はルームシェアをして暮らしているのだが、ちょっとした工夫で日常を楽しんでいる。その様子に「こんなふうに年を重ねたい」と憧れの声が数多く寄せられ、Twitterでエピソードが投稿されるたびに話題を呼び、5万以上のいいねがつくこともしばしばだ。マダムたちの日常の楽しみ方はどこから生まれているのか、sekoさんに話を聞いた。
ある日、美術館に行こうと沙苗さんと晴子さんを誘った栞さん。夏も近づき、暑い日。衣替えもしたので服を選ぶのが楽しみだと話す栞さんと晴子さんの様子を見て、何か考えているのは沙苗さんだ。準備が終わった沙苗さんが着ていたのは爽やかな青のシャツに黄色の帽子。ゴッホの有名な「自画像」をイメージした服選びをしていたのだ。そして実は晴子さんもフェルメールの「真珠の耳飾りの少女」を意識したコーディネート。「私だけ遊び心を忘れてるじゃない…」と悔しがる栞さんのために、2人は栞さんの持ち服からセザンヌの「リンゴとオレンジのある静物」をイメージしてコーディネートをしてあげ、3人で美術館鑑賞に出かけるのだった。このエピソードには8万いいね(2022年10月現在)がつき、「素敵な発想」「私もやってみたい」というコメントが寄せられた。
このエピソードはどこから思いついたのかsekoさんに聞くと、「特別ではない日でも、友人や妹とテーマを決めて服をそろえるという遊びをよくやっていたので、美術館に行く話はそこからでしょうか。ありがたいことに、私の周りには、楽しそうだなと思ったことに付き合ってくれる家族や友人がいたので、漫画のネタにさせてもらったりしています」とのこと。「美術館を楽しむマダムたち」以外でも、sekoさん自身が日常で感じたこと、出来事が作品に反映されているそう。
「バレンタインのエピソードで沙苗さんがカカオ100%のチョコレートを食べる話があるんですが、これは実際に友人からもらった体験をもとにしています。他にも、落ち込んでいる妹に『大丈夫ー?』と声を掛けながら踊ってみたり、夜中にいきなり『桜見に行かない?』って幼馴染を誘って家を飛び出したり…自分の体験が自然と作品に生かされていて、周りの人のおかげで作品ができていると言っても過言ではないです」
しっかり者の沙苗さん、ムードメーカーの栞さん、おっとりした晴子さんというタイプが違う3人だが、それゆえにお互いにいい影響を与えていることがうかがえる3人の友情にも賞賛の声が集まっている。“女性同士の友情”に対し、やもすると“浅い”とか“ドロドロしている”というようなネガティブなワードを持ち出される場合もあるが、sekoさんは女性の友情はどのようなものだと感じているのだろうか?
「女性同士の友情も男性同士の友情も男女の友情も、このようなものですとハッキリ言うことは私からはできないのですが……性別問わず友情というものは、条件がなくとも信頼しあえ、相手を尊重している状態のことだと思っています」
sekoさん自身が、周囲の人とよいコミュニケーションを築き、日々を彩る方法を知っているからこそ、マダムたちの毎日も輝いているようだ。
イラストレーターとして活動していたsekoさん。海外のマダムが自撮りした写真を見たことをきっかけに、マダムをテーマにしたイラストを手がけるようになった。年を取ることへのネガティブなイメージを払拭し、“年を取っても自由でいい”という明るい未来への願いを込めて描いたんだそう。特に注目を集めたイラストのマダムたちを登場人物として漫画にしたのが「マダムたちのルームシェア」だ。“seko koseko”としては初の漫画作品になるが、漫画自体は以前から趣味で描いていたんだそう。
「高校生のころが一番描いていた気がします。クスッと笑えるギャグが入っている日常漫画が好きで、そういったものばかり描いていました」
sekoさんの絵は削ぎ落とされたシンプルな描線と、淡い色味を使った色使いが特徴だ。「自分ではありがちな絵だな、と思っていた」と謙遜するsekoさんだが、色味についてはこだわっているのだそう。
「少しくすんだ色を使うのが好きなのですが、それでも暗い印象にならないように配色を考えたり、質感を単色でどう表現するかは結構考えて描いています。また、キャラクターの動作もなるべく自然に見えるように気を付けています」
年を取ることへのネガティブなイメージを払拭したいという狙い通り、色使いがマダム達をよりハツラツとした印象に仕立て上げているのだろう。読者にもマダムたちに込められた思いが伝わっているからこそ「こんなマダムになりたい」という声が集まっている。
「マダムたちに年齢が近いという方が、『漫画を読んで将来の夢ができました』と言ってくださったことが特にうれしかったです。将来の夢って、年齢を重ねるごとに新たに出来にくくなっていくと思うので」と話すsekoさん。sekoさん自身は3人のマダムをどのように思っているのだろうか?
「『こんなシニアになれたらいいな』と思って描いていたので、3人とも私の憧れです。自分の将来がこんな風であれという願いがあの3人です。柔軟に物事を考え、挑戦することに臆せず、遊び心を忘れない。ポジティブなことは出来るだけ相手に伝える。楽しいことに全力で、相手と丁度いい距離を保てるような人間になりたいです。それでも理想は少しずつ変わっていくので、これからの自分の考え方の変化も楽しみにしています」
先にルームシェアをしていた沙苗さんと栞さんの元に、晴子さんが合流するようになった描き下ろしエピソードを含めた初の書籍は発売後たちまち重版が決まり、好調だ。今後の目標について聞いた。
「3人の楽しい日常をもっとたくさん描いていきたいです。あと、栞さんの娘さんや、晴子さんのお孫さんに3人が関わるエピソードもいつかは描いてみたいなと思っています」
大イベントは起きない。時には落ち込むことだってある。しかし、毎日がちょっとした楽しみと喜びに彩られている。そんな“幸せ”なマダムたちの日々がこれからも楽しみだ。
取材・文=西連寺くらら
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