映画「武曲ー」“黒い雨”に打たれた綾野剛&村上虹郎が変貌!?

2017/06/06 06:00 配信

映画

僕たちのお芝居をモニター越しではなく、生で見てくれる監督


綾野剛の人柄について、村上虹郎は「役を通して肌で感じることができました」撮影=横山マサト


――監督は「海炭市叙景」('10年)、「私の男」('14年)などの熊切和嘉さん。熊切監督とお仕事されての感想を教えてください。

綾野 僕は「夏の終り」('13年)という作品で初めて熊切さんとやらせていただいたんですが、そのときは熊切組に入れる喜びの方が勝ってしまっていた部分があって、なんだか浮ついていた気がするんです。だから、やり残したことも非常に多くて、次はないかもしれないなと思っているときに、熊切さんから「次もやろうね。次は悪くて悲しい男をやりたいね」と仰っていただけて。次こそは、素材としての自分が鮮度の高いものでありたい、それを熊切組にぶつけられるようにしておきたいと思いながら5年の月日が経ちました。そこからの「武曲」だったので、自分ができる準備をした状態で現場に入れました。また、現場での監督は、僕たちの話をちゃんと聞いてくれるんですが、かといって役者がやりたいようにやらせるのではなく、ちゃんと手綱を握っている感じがあって。僕らが安心して生きていける環境を作ってくださったので、さすがだなと思いました。熊切さんは僕たちと一心同体になろうとしてくれていて、たぶん現場で一番ボロボロだったのは監督だと思います。だからこそ、信頼できるし、この人をノックアウトしてやろうという高い意識が生まれるんだと思います。

村上 僕は3、4年前に映画館で一瞬お会いしたことがあって、熊切監督とはずっとご一緒したいと思っていました。特に具体的な説明をされるわけではないんですが、聞きたいことがあったら、すぐに聞いてくれるし、誰よりも近いところにいてくれるんです。僕たちのお芝居をモニター越しではなく、生で見てくれる監督でした。それはすごくうれしかったですね。

綾野 基本、カメラの横にいるからね。

村上 うれしかったですね。

――映画の最大の見せ場となるのが、台風の夜に研吾と融が直接対決するシーン。墨を混ぜた黒い雨が降る中で、泥まみれになりながら闘ってましたね。

綾野 あのシーンは3日間かけて撮影しました。雨に打たれるし、墨にも打たれるし、自分を追い込んでいかないといけないシーンだったので、いろいろと疲弊しましたが、それを役に転じることができたと思います。

村上 僕も基本的には楽しかったのですが、すごく寒くて。雨を降らせているのもあって、体力を奪われていくんです。それこそやっているうちに限界が来るのですが、綾野さんが声を掛けてくれたり、リードしてくださったので、集中してお芝居することができました。

綾野 でも、当分、墨に降られるのは…あれを落とすのは本当に大変だったから(笑)。

村上 普通の墨じゃなかったんですよね。

綾野 洗っても全然落ちなくて。

村上 二人ともエイリアンみたいな姿になってましたよね(笑)。

「不安を取り除くには努力しかない」と綾野剛撮影=横山マサト


――綾野さんのストイックな姿勢が映画のパワーになったと、プロデューサーさんがおっしゃっていたのですが、綾野さんはなぜそこまでストイックになれるのですか?

綾野 ストイックって、自分で決めることじゃないと思うんです。だから、ストイックということではなくて、単純に不安なんだと思います。そして、その不安を取り除く精神安定剤になるのは、努力しかない。今回だったら、剣道の練習をひたすらやることが精神安定剤になるし、肉体も再生している表現をしなくちゃいけないシーンがあったので、ひたすらトレーニングを行っていました。そうやって肉体的にも技術的にも変わってくると、それが安定剤になるんです。映画は残っていくものなので、ある種、残酷というか。そのときのものがそのまま残ってしまうわけだから、そういった意味でもやれることはやっておきたいと。

――映画はずっと残っていくもの。確かに後悔してもどうしようもないですよね。

綾野 それよりも、やることをやっていないと現場で対応できないからです。求められることに対応できないのが、僕は辛い。だから、現場が喜んでくれるのはうれしいし、監督がうれしそうにしていることがうれしい。もちろん、虹郎がいい顔で芝居をしているのだけでもうれしいんです。だから、自分がそこまでのところに持っていかないと、と。海外の作品のように1年も2年も時間をかけられるわけではないので、集中してやることが大事だと思ってます。

墨を混ぜた黒い雨が降る中での撮影では、「二人ともエイリアンみたいな姿になってた(笑)」と村上撮影=横山マサト


――綾野さんは今回、肉体改造ともいえる役作りを行われましたが、村上さんもそういう役へのアプローチ方法をやってみたいと思いますか?

村上 今回の役で、そこまでやれるのはすごいと思います。僕はそういうのに若干の苦手意識があるんですけど、自分にそういう役が来たときのことを考えて、心の準備はしておこうと思いました(笑)。

綾野 たぶん虹郎もハマるんじゃないかな。目的があれば。でも、その目的がなくなると、僕も維持することはできない。たまたまこの映画の後に「亜人」(9月30日・土公開)があったので並行してやりましたし、「フランケンシュタインの恋」(日本テレビ系)の第1話で、どうしても脱がないといけないシーンがあったので、また作りましたが、今は一切やってないですから。

村上 やってないんですか?

綾野 当たり前じゃん。こんなつらいこと、やらないよ(笑)。

村上 酒も飲めないですもんね。

綾野 でも、虹郎は年齢的にまだ若いし、肉体がまだ成長していると思うので、過激な肉体作りはあまり勧めない。今思いっきり過酷に肉体を作ってしまうと、肉体の成長が止まってしまう危険性があるから。でも、もし、そういうのが必要になったら、全力で自分の経験と環境とパーソナルトレーニングを紹介します。