イ・ソンミンは、「多くの人物、容疑者が登場し、推理して追跡していく面白さがある」と、このドラマの魅力を語っている。彼自身、台本を1冊、また1冊…とどんどん読んでしまうほどハマったそうだ。
また、自身の役について、「過去のあるトラウマのためにパニック障害がある人物だ。また、同僚がケガをしたり被害を受けることを極度に嫌う。そんな人物が誰よりも親しい同僚を失うことになるので、感情や気持ちの変化、パニック障害の表現のために血圧をたくさん上げながら演じた。テクロクが持つトラウマと基本的な性格を表わすのに、漠然として息苦しかった。うまくいかなくて悩んだこともある」と製作発表で語っていた。
イ・ソンミンは、どんな役も「演じる」というより、その役の人物として「生きている」。
実在の人物を演じたときは、本人とは似ていない外見をどう近づけて見せるかに苦心して、歩き方や背中の曲がり具合、もちろん話し方やクセまで何度も何度も見て研究し、本人かと思うようなシンクロ率を見せたり、演技中に役に入り込みすぎて血圧が上がりまくり、目の毛細血管が破裂したこともある。充血した目でそのまま演技を続けて、相手側の俳優はその迫力に圧倒されたそうだ。
彼は、“俳優”について「俳優は鉄を胸で溶かすことができる人、だと信じる人」だと言う。そして、「音楽家が楽器を演奏するように、俳優は自らを演奏しなければならないので、簡単じゃない。だから、自分がどういう人間か知ってこそ調整して、役を具現化できると思う。自身のハードウェアを用いて何かを創造するのは俳優の能力だ」と語り、魅力的な役柄でも、自分のスペックでは良さが引き出せない、と判断したら諦めて断ることもあるそうだ。
“俳優”という職業は、自分を知っていく過程にある、と語るイ・ソンミン。自分の外見や声で演じられるキャラクターがある程度決まり、それと共に、今まで生きてきた環境、情緒、感性、知恵などが追加されて、役が出来上がっていくのだという。
このように真摯に役と向き合い、徹底的に理解しようとする姿勢が、どんな役でも嘘がなく、観る側に常に「こんな人、居る」と思わせてしまうのだ。常にリアルなので、観ているこちらも役を超えて本気で共感したり、応援したり、共に哀しんだり、憎んだりしてしまう。
地方の劇団からキャリアをスタートさせたイ・ソンミンは、演技にはもともと定評があり、ドラマでも徐々に重要な役回りを任され始めたが、5番手辺りのポジションが続いていた。だが、2012年、44歳のときにドラマ「ゴールデンタイム」で、主役クラスに大抜擢されて、一気に彼の演技力の高さを知らしめ、知名度も注目度も上がった。いくつもの主演男優賞も獲得した。
そして、地位を不動のものにしたのが、2014年の「ミセン-未生-」。作品自体も社会現象化するほどの盛り上がりを見せたが、この作品で彼が演じた、主人公の上司・オ・サンシクは、直情型で上司ともスグぶつかり、常に目は充血、髪はボサボサ、言葉はキツいが人情に厚い人物で、若者たちから「理想の上司」に選ばれるほど支持を受けた。
続く「記憶」では、ついにドラマ初主演。家庭を顧みず仕事一辺倒だった敏腕弁護士が、ある日突然、若年性アルツハイマーとなり、大切なものが何かに気づき、徐々に消えていく自我と戦いながら生きていく姿は、あまりにもリアルで観ていてつらくなるほどだった。この作品は後に中井貴一主演でリメイクされている。
その後は、主役クラスの常連となり、映画でもドラマでも無くてはならない俳優となった。今回の作品では、アクションシーンが多く、体力的にキツかったそう。走るシーンもたくさんあったが、そのおかげで、糖尿病寸前だった数値が正常値になるという嬉しい結果が付いてきたそうだ。
テクロクは「友」の正体を暴くまでまだまだ走る。そして、ベテラン刑事のカンと推理で、真相に着々と近づいている。推理するテクロクのセリフと共に、一緒に事件を解明していく気持ちになりながら観るのも楽しい。「友」は、テクロクがまだ見ぬ人物なのか、それとも近い人物なのか、そして、何故彼を殺人犯にしようとしたのか―まだまだわからないことだらけ。最後まで彼と共に推理を楽しみたい。
◆文=鳥居美保/構成=ザテレビジョンドラマ部
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