“雷神ソー俳優”クリス・へムズワースが本気で苦しみ、青ざめ…“限界”に挑戦 画面越しにも伝わる緊張感

2022/11/22 07:10 配信

芸能一般 レビュー

「リミットレス with クリス・ヘムズワース」は、ディズニープラスで独占配信中(C)2022 National Geographic Partners, LLC.

俳優クリス・ヘムズワースは2023年8月に40歳の誕生日を迎える。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の「アベンジャーズ」シリーズ、「ソー」シリーズで演じる“雷神ソー”を筆頭に、取り組むことすべてが大当たりの超売れっ子という印象が強いのだが、頂点を極めているがゆえに思うところもあったのか、映画「ソー:ラブ&サンダー」収録の一方で、「老い」をテーマにするナショナル ジオグラフィックのドキュメンタリーシリーズに取り組んでいた。題して「リミットレス with クリス・ヘムズワース」。役ではなくクリス本人として出演する本作の見どころをオリジナルレビューで紹介する。(以下、ネタバレを含みます)

ディズニープラスで独占配信中の「リミットレス with クリス・ヘムズワース」は、雷神ソー役で世界的スターになったクリスが、最先端の科学的研究に基づき、人間の体の可能性を最大限に発見する秘訣(ひけつ)を知るドキュメンタリーシリーズ。

ファミリーのサポートを受けて作品に参加


各回のタイトルは順に「ストレス耐性」「ショック」「断食」「強さ」「記憶」「受容」。撮影は1年間にわたって行われたようだ。トップ俳優として徹底した健康管理を行ってきただろうことは疑いないであろうものの、それでもクリスは30代後半になった頃から老化を感じ始めたという。そこで、より長く、より上質に生きる方法を見つけたいと、妻のエルサ・パタキー、兄弟のルーク・へムズワース、リアム・へムズワースのサポートを受けて、このシリーズに取り組んだ。

クリスが受諾した「訓練」の内容は、もう、「とんでもない」というしかない。あのたくましい雷神ソーを演じた彼が、本気で苦しみ、青ざめ、息切れしているのだから、これはもう、想像を絶する過酷さ。画像も音質も非常にヴィヴィッドだし、展開も分かりやすいので、画面越しに視聴しているこちらにも、マイナス36度の北極圏の海水の冷たさ、高さ900フィート(約270メートル)のビルの頂上を歩くときのすさまじい緊張感、薄い空気の苦しさなどがダイレクトに伝わってくる気がした。いや、たとえ何パーセントかもしれないが確実に伝わってきたのだ。

画面上で苦しむクリスには申し訳ないが、私は何度か画面を止めて、楽しいことを思い出したり、YouTubeで動物動画を開いたり、お菓子や紅茶で喉や胃をうるおす必要があった。そのくらい切迫させられるのだ。GPSなしでの大自然トレッキング、4日間の断食など、もうこれは“ドM”の所業ではないか。

老人メークをしたエルサも登場


「受容」は、老人になってからの自分がテーマ。クリスはお年寄りの身体的な変化を体験すべく特殊なスーツを着用し、老人ホームで3日間を過ごす。「老人ギプス」的なものが加わったスーツを着たら、動くのもひと苦労。だが生きていれば老化は免れず、それ以前に、生き続けようが、それを自らの意思で止めようが、つまるところは「死」に行きつく…という点では何をどうしても同じである。それならば恐れるよりも、それをしっかり受け入れて、1日1日をしっかり過ごしたほうが断然、有意義だ。

後半部分では、老人メークをしたエルサもサプライズで登場するが、それに対するクリスの反応、そこからエンディングに向かう展開は、全6話の締めくくりを飾るのに実にふさわしいものであるとも確信した。

本作の撮影(第5話「記憶」)で遺伝的にアルツハイマー病を発症しやすい体質であることが分かったクリス。一部報道によると、しばらく俳優業を休止するとも発言しているという。「好事魔多し」ともいうが、これだけの完璧な肉体を誇るスーパースターでも、病だけは音もなく静かにやってくるという恐ろしさ。しかし、イメージ戦略で配信前に判明したシーンをカットすることもできただろうに、すべてさらけ出してくれるのは裏表のないクリスらしくて好感が持てる。

願わくば、今はゆっくりと休んでいただいて、また“雷神ソー”として華麗にカムバックしてほしい。

◆文=原田和典