そらる「人間の本質を僕なりに考えたこたえが、この小説には詰まっています」

2022/11/22 17:00 配信

芸能一般 インタビュー

「小説 嘘つき魔女と灰色の虹」を発表するそらる写真:干川 修

動画の総再生回数は3億回を超え、令和のネットシーンを席巻するクリエイター・そらるが初の小説「小説 嘘つき魔女と灰色の虹」を発売。“イロ”のない世界を舞台に描かれる本作。機械技師の少年・ルーマと、色彩が見える魔法使いの少女・イリアの出会いが、灰色に染まった世界の運命を変えていく物語だ。自身の楽曲を元に、壮大なファンタジーへと昇華した本作は、約1年半にわたって雑誌で連載されたもの。当時の執筆のエピソード、そして物語に込めた思いをたっぷりと語ってもらった。

僕の楽曲の中でもいちばん小説に向いている作品

「小説 嘘つき魔女と灰色の虹」※提供写真


―ご自身の同名オリジナル楽曲をノベライズ化した「小説 嘘つき魔女と灰色の虹」について、初の小説に挑もうと思われたきっかけをお話しいただけますか?

そらる:僕の中で以前から小説を書きたいという思いがあったわけではなく、雑誌「ダ・ヴィンチ」さんからお声がけいただいたのが最初でした。お話があったのがちょうどコロナ禍でライブ活動などが制限されていた時期でもあり、タイミング的にも時間があったんです。また、最初から「嘘つき魔女と灰色の虹」を小説にするということではなく、「ゆきどけ」などノベライズする候補曲がいくつかあったんです。その中から悩みながらも、この曲がいちばん小説に向いているのではないかと思い、選んでいきました。

―雑誌では隔月連載でしたが、この連載という形はそらるさんのご提案だったのでしょうか?

そらる:いえ、それは「ダ・ヴィンチ」さんのアイデアでした。小説は初めての試みでしたので、結果的に編集者さんと相談しながら時間をかけて書いていくという連載でよかったなと思いました。とはいえ、実際に書き始めたらどんどんと内容が増えていって。当初は6章立ての予定だったのが、最終的に8章まで延びてしまったので、そこはちょっと大変でしたね(笑)。

―それは想定外の展開ですね(笑)。

そらる写真:干川 修


そらる:最初は細かくプロットを書いて、全6章が均等になるように物語を配分していたんです。でも、頭の中だけで考えていた自分流の起承転結だと、後半があっさりしたものになってしまうなと途中で気づきはじめて。そこから内容を膨らませていったところ、思った以上のボリュームになってしまいました。

―普段、楽曲の歌詞を書かれるときもプロットをしっかりと作成されることはあるんでしょうか?

そらる:作詞作業にはいろんなパターンが僕の中にはあり、それこそプロットに近い、ざっくりとしたストーリーのようなものを事前に書くことがあります。また、自分の頭の中で物語を映像としてイメージし、そこから印象的なシーンを歌詞として落とし込んでいくパターンもあって。この「嘘つき魔女と灰色の虹」に関しては後者だったように記憶しています。

この世から色がなくなれば、人は無気力になってしまうかも

そらる写真:干川 修


―改めて、1年以上かけて執筆作業をするという経験はいかがでしたか?

そらる:すごく難しかったです(苦笑)。メロディや歌詞は集中して一気に作り上げていくことが多いので、これだけ長い時間をかけて何かを作るという経験がなかったんです。そもそも、1年かけて曲を作ろうとも思わないですし(笑)。それに何カ月も前に書いたものだと、内容の細かい部分を忘れてしまうことがあったので、以前のものを確認しながらの作業だったのが大変でした。特に今作では、“イロ”と記憶と時間の概念や関係性を軸にした物語になっていますので、ストーリーを書き足していくうちに、辻褄というか、整合性が取れなくなっていくことが多くて。途中で、“これなら連載ではなく、一気に書いたほうがよかったのかも……”と後悔しそうになったこともありましたね(笑)。

―もともとの歌詞自体もファンタジックな世界観ですが、今回小説にするにあたって、特に大事にした部分はどこでしょう?

そらる:オリジナルの歌詞では《自分が信じて見ていたものが本当に正しいわけではない》というメッセージをテーマにしていましたので、まずはそこから物語を膨らませていきました。色彩を感じることができる魔法使いの少女・イリアと、“イロ”を知らない少年・ルーマが出会い、2人が成長していくというお話ですが、その根底には、“色のない世界で生きるとしたら、人間はどうなってしまうんだろう?”という僕の思いが詰め込まれているんです。もしかすると無気力な人間が増えていくかもしれない。そうした人間の本質を僕なりに考えたこたえが、この小説だと言えます。

―先ほど、ご自身でこの曲を小説の題材に選んだとお話しされていましたが、手ごたえはいかがでしたか?

そらる:僕は物語調の歌詞を書くことが多いのですが、その中でもこの楽曲の歌詞の世界観は自分好みだったこともあって、書いていて楽しかったですね。ただ、やはりファンタジーですので、架空の人物や町並み、風景などを表現していく必要があって。実際に現実の世の中にないものを想像し、それをすべての読者に伝わるように言葉にしていくという作業は思っていた以上に大変でした。その意味では、初めての小説で選ぶ題材として失敗だったかなと反省しています(笑)。

―反省が多いですね(笑)。

そらる:そうですね。経験してみて気づくことが多かったです。

―また、編集者と相談しながら書いていったところもあるということでしが、ご自身が書くものに修正が入ることにはあまり抵抗はなかったのでしょうか?

そらる:それはなかったですね。言葉の表現において、“ここは絶対に譲りたくない”というのが、実はあまり僕の中にはないんです。たとえば今作のように《目に見えるものだけが真実ではない》というテーマの物語を書くにしても、その描き方のアプローチは無限にありますよね。僕は魔法使いの少女と少年の出会いを使ってそれを表現していきましたけど、それだけが正解なわけではなく、もっとストレートな言葉で伝えていく方法だってある。何よりも大事なのは、最終的にしっかりとメッセージを届けることですので、「こういうふうに変えませんか?」という提案は、基本的に素直に受け入れていました。もちろん、なかにはどうしても残したい描写もありましたので、そこだけは僕の思いを反映させていただきましたけど。

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