『アークナイツ』の絶望に、寄り添いたかった。ReoNa『Alive』インタビュー

2022/12/14 18:01 配信

音楽 アニメ インタビュー

ReoNa※提供写真

『ソードアート・オンライン』シリーズ、『シャドーハウス』『月姫 -A piece of blue glass moon-』など、数多くのアニメ・ゲーム作品に「お歌」で寄り添ってきた絶望系アニソンシンガー・ReoNa。7枚目となる最新シングル『Alive』は、現在放送中のTVアニメ『アークナイツ【黎明前奏/PRELUDE TO DAWN】』のオープニング主題歌であり、2018年のデビューから5年近くを経たReoNaのお歌が、より広く、深く届いていくことを予感させる1曲。2023年3月には、自身初のアーティストブック「Pilgrim」の発売、初の日本武道館ワンマンライブ、そして2ndアルバム『HUMAN』のリリースと、次々に新たな一歩を記していくReoNa。その歌声と言葉を、ぜひ受け取ってみてほしい。

世界への絶望や、自分の中で感じる息苦しさ、葛藤を等身大に詰め込みたいと思った


――10都市16公演を走り切った「De:TOUR」の豊洲公演を見させてもらって、「広く浅く」ではなく、「広く深く」届く音楽、ライブになってると感じました。ステージ上でも、そのことは実感できたんじゃないですか。

ReoNa:これまではリアクションが返ってくるのを待ってる状態というか、目が合って、同じ空間にいて、お歌を歌って、そこにあなたがいて、が自然な感覚でいたけど、少し積極的にステージに立てていた感じがします。

――今回のツアーを経て、来年3月、初めての武道館ワンマンライブに持っていけるものって何だと思いますか。

ReoNa:たくさんのものを得られたと思います。広い言葉で言うならかけがえのない経験をしたし、楽曲制作の中で「絶望」っていう言葉にはすごく広い意味があるなって、感じることが多くなりました。わたしがライブでお歌をお届けするときに掲げているひとつの軸である「一対一」にも、まだまだわたしの知らない顔があるんじゃないか、と思っていて。紡がれている言葉を自分ごとにして、自分の心に向けて紡がれてるものとして受け取ってもらいたい気持ちは変わってないですけど、来てくれたひとりひとりが「今日来てよかったな」「この1日をここで過ごせてよかったな」と思ってもらえるにはどうしたらいいか考えたときに、ライブでしかできないことが増えたツアーだったと思います。この「まわり道」をしていなかった自分と、「まわり道」を経てから武道館に向かう自分には、絶対的な差があると思います。

特に、一緒にお歌を届けるチームとの信頼や絆は『De:TOUR』があってこそ得たものがあって。独りよがりだったり、まわりが見えてなかったりで、ひとりぼっちで戦おうとしていたところから、一対一を届けるためにいろんな人がいてくれてることに改めて気づかせてもらえるツアーでした。総力戦で臨む武道館になるんじゃないかな、と思います。

――シンプルに「ライブがデカくなったな」と感じました。武道館のステージにふさわしいサイズの音楽や歌があるとして、明確にそこにたどり着いた気がしますね。

ReoNa:ありがとうございます。

11月19日@豊洲PITphoto by Viola Kam (V'z Twinkle)

11月19日@豊洲PITphoto by Viola Kam (V'z Twinkle)

11月19日@豊洲PITphoto by Viola Kam (V'z Twinkle)

11月19日@豊洲PITphoto by Viola Kam (V'z Twinkle)

――そのスケールは、今回のツアーでだけで手に入れたものではなく、この1年、さらに言えばデビューからここまでの歩みの中で獲得してきたものじゃないかな、と思います。7枚目のシングル『Alive』の表題曲も、おそらくツアーの前に制作されたものだと思うけど、ここまでに手に入れてきた音楽、歌の大きさ、スケールを感じさせる曲ですね。

ReoNa:この楽曲の種として、実はわたしが10代の頃に書いた日記の中の言葉が入っています。それをアニメ『アークナイツ』の渡邉(祐記)監督に、「この言葉はこのままでお願いします」って言っていただけて。アニメの制作が決まって、主題歌を担当させてもらうことが決まったときに、Yostarさんで打ち合わせをさせてもらえる場があって。そこで、わたし含めてクリエイターさんと一緒にお話を聞きました。『アークナイツ』の原作ゲームの物語には、救いのなさや絶望があって、それをそのままアニメにしたいです、というお話があって。絶望、ReoNaとして掲げている言葉と同じ、背中も押さない、手も引かない、ただそこに痛みがある――そういう作品になるんだな、と感じました。

――今までいろいろな作品に寄り添ってきたけど、救いのなさという意味では『アークナイツ』の設定や作品世界のそれは際立っている印象がありますね。

ReoNa:フィクションのようで、実は身近にあることにも思えるところがあります。わたし自身もゲームをプレイしていて、物語の行く末も知っていますが、ほの暗くて、重苦しく、痛みをすごく伴う作品だと思います。その中で、世界への絶望や、自分の中で感じる息苦しさ、葛藤を等身大に詰め込みたいと思ったので、作品を紡ぐ監督に「そのままで」って言っていただけて、「今回はわたしが歌詞にも挑戦したい」と思い、歌詞を書かせていただく制作になりました。

――10代の頃に書いて、歌詞に投影された言葉とは?

ReoNa:《何を守って 傷つけて 今まで生きてきたんだろう》と《理不尽と戦って》の部分です。ありのまま、17歳のときに書いた言葉で、友人もいなくて居場所もなく、自分の生きる意味も価値もわからなくて、もしかしたら希望の光が近くになるかもしれないけど、それに期待したら落ちたときにより苦しいな、とか――そんなことばかり考えて生きてたときに、出てきた言葉です。

――近くに希望の光があるかもしれないけど、当時は目の前には見えていなかった。だけど、“Alive”には確かに希望の光が見える感じがします。絶望の向こう側に、確かな希望がある。これってすごく新しくて、次のステージを感じさせるし、誰もいない、自分しかいなくて、何も見えないところで書いた言葉からスタートしているにもかかわらず、見てる景色がこれまでの楽曲の中で一番大きいですよね。

ReoNa:確かに、最初にこの楽曲の種ができた10代の頃は、希望の光が見えていなかったですけど、“Alive”の歌詞を書き上げた時点のわたしは、実は初の武道館ワンマンライブが決まっていて。『アークナイツ』の作品世界も、勧善懲悪ではなく、それぞれの立場人によって正義が違っていて、目の前の理不尽をどの角度からとらえるか、どう行動することが自分たちにとっての正義とするかで、敵か味方かが分かれてしまう物語なんです。そういう救いのないお話の中で、限定的な寄り添い方にしたくなかったんです。「これ、完全に主人公側の歌じゃん」にはしたくなくて。

本当は目指す先が同じはずなのに、考え方が違うだけ、やり方が違うだけで、傷つけ合って戦って、お互いの命すら奪い合うような形になってしまう。『アークナイツ』の主人公側、ロドスのキャラたちのことも思いましたし、逆に対立するレユニオンのキャラたちにもそれぞれストーリーがあるし、なぜその行動を取るしかなかったのか、にも理由があって。『アークナイツ』の世界自体が持つ、すごく広い絶望ってなんだろうって思いながら、歌詞を書きました。

――作品が持つ絶望の全部を引き受けた。

ReoNa:『アークナイツ』の絶望に、寄り添いたかったです。その絶望のひとつひとつに、寄り添えてたらいいな、と思います。アレンジや音色、ひとつひとつを取っても、広くて大きいからこそ、絶望を感じるところがあって。だからこそ、楽曲を作る過程のひとつひとつで、世界を狭めない、広く大きくするために、どのセクションでもこだわっていました。

「ただ生きている」じゃなくて、「それでも生きている」「だけど生きている」みたいな意味の“Alive”であってほしいな、と思っています。“Untitled world”という楽曲で初めて『アークナイツ』に寄り添わせていただいたときも、《まだ 息をしてる/Still breathing》という歌詞があって、その言葉が『アークナイツ』への寄り添い方だな、と思いました。

――広さ・大きさを感じさせつつ、強さも内包している曲が“Alive”だと思うんです。「逃げてもいいんだよ」という言葉を掲げてきて、それは今後も掲げていくと思うけど、5年近い歩みの中で獲得してきた強さが、この曲に投影されてる気がしますね。何度も痛みと向き合うことで必然的に強くなるだろうし、アーティストとしての進化や成長もそこに刻まれていくだろうし。単純に「強いメッセージ」を届けるのではなく、強さがある歌として存在するのが、新しいステージというか。

ReoNa:そうなっていたらいいな、と思います。「逃げる」って、撤退や後退、マイナスとか引き算みたいなイメージがあると思うんですけど。わたしにとっての「逃げる」は、自分にとってマイナスを及ぼしてくる避けられない不幸や、自分が潰れてしまうかもしれない苦しみ、自分の存在や命を脅かすものから逃げることで。それは決してマイナスじゃないし、逃げたからこそ、そのとき自分がいなくならなかったから、その先で好きなものに出会えたり、自分の居場所を見つけられたりすることもあるので、決してマイナスや悪いことではなかったなって思いたいです。

――折れないし曲がらないし、ちゃんと1本筋が通ってる感じがするし、これまでの歩みやってきたことが間違いではないと証明できた楽曲だと思いますね。逃げた先に手に入れたもの、獲得したものは確実にあるんだと。

ReoNa:そうですね。だからこそ、武道館で掲げている「逃げて逢おうね」という言葉に、必然性が出てくると思います。

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