声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。
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日々を大切に生きよう。
そう思う瞬間や言われる機会は多いが、実際日々を大切に生きられているかと問われると、疑問に思ってしまうことがある。
大切には生きられているのだろうけど、その先の私につながってはいない、そう思ってしまうことがある。
今回紹介するのは朝井リョウさんの『時をかけるゆとり』というエッセイ作品だ。これまで私の書評でもいくつかエッセイを紹介させてもらったが、中でも本作は笑いが止まらない、他のエッセイとは違った方向から前を向かせてくれる、新感覚の作品だった。
エッセイというと、人生観が度々登場するものと私は勝手に思っていたが、本作では朝井さんがこれまで経験した面白い事件を年代別に分けた年表から始まり、主に朝井さんの大学時代の思い出を、朝井さんが当時感じた気持ちが伝わる面白い文章とともに、読者も一緒に体感できる擬似体験が可能な一冊だなと、読み始めた瞬間に感じた。
読みながら私は「なぜこれまで日記をつけていなかったんだ!」と思ってしまうくらい、朝井さんの過去の記憶は文章によって瑞々しく生きていて、きっと朝井さんの中でも当時起きた事件は薄れることなく輝き続けているのだろうと思うと、なおさら私も自分の言葉で、これまでの面白かった経験や出会いを書き記しておけばよかったと、日記を書こうと思ったことがこれまで一度もないのに、そう思えた。
小学生の頃、転校することが多かった私は、新しい学校で新しく同学年の子たちと会う瞬間を今でも覚えてはいるが、当時の感情を細かく覚えているかというと、記憶がぼやっとしてしまう。それだけでなく、引っ越した時に「ここが今日から私が住む街だ」と認識する最初の景色には、不安と期待が入り混じるような、心がふわふわする形容するのが難しい感覚になる。当時はもっと繊細に何かを感じていたはずなのに、24歳になった私はもう、あの頃の貴重な経験で感じた感情を事細かく覚えていない。寂しさも感じつつも、大人になるにつれてもっと楽しい、悔しい、つらい、さらに面白い記憶が増えることで、当時の記憶が薄れてしまったのかなと思うと、なんだか人生を楽しめている気がする。
これから先「そういえばあの時」と思い出した際に、枠組みだけでなく当時の感情を鮮明に思い出せるように、文字で日々を書き記していきたいと、本作を読んで強く思った。未来の自分が過去を振り返りたくなるような、そんなワクワクする出来事に、受け身になるのではなく、自分でアクションを起こす。それが、いわゆる"日々を大切にする"に繋がっていくのかもしれない。
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