――新作歌舞伎は、普段歌舞伎に触れる機会のない層が初めて観劇するきっかけになると思われます。一方で、新作歌舞伎を作ることが歌舞伎界に与える影響はどんなものでしょうか?
獅童 歌舞伎界への影響はわからないですね。何も思わない人もいれば、刺激を受ける人もいるかもしれない。もしかしたらそういうことをやるのが嫌いな人もいるかもしれないし。誰も間違いではなくて、人それぞれの考え方があると思っています。ただ、我々の世代がどんどん新しいお客様に歌舞伎を見ていただけるように開拓していかないと、古典歌舞伎も死んでいってしまう。
コロナ禍で最も怖いのは、コロナによってお客様が減ったのか、それとも単純に客離れしたのかがリサーチできないこと。家から出なくても楽しむすべが増えたし、歌舞伎界も戦後最大のピンチかもしれない。それくらいの危機感を持ってやっています。伝統のいいところを残し、余計なものは排除していかないと、ただやっているだけでは、そこに若者たちがついてきてくれるとは思えないんです。若い方たちに見ていただきたい。同時に、いつも歌舞伎をご覧になっている方にも「時代が変わって、こういう歌舞伎も楽しい」と思っていただけないと成功とは言えないので、その両方を考えています。
松也 菊之助さん・獅童さんといった、新作を上演してくださる先輩方の姿を見ることは、若手の歌舞伎俳優たちにとってとても刺激になると思います。さまざまなチャレンジをしてきたからこそ歌舞伎が現在まで残ってきたわけですので、とても大切なことだと思うんです。そして何年後かに新作を作ってみたいと思う若手たちが増えることが、歌舞伎にとっての力になる。古典と呼ばれている作品も、かつては全部新作だったわけです。もしかしたらこの『FFX』が数百年後に「三大名作ゲーム」のひとつになっているかもしれない。そういう夢を持って新作を作っていきたいと思いますし、きっと何かが生まれるきっかけになるチャレンジだと思います。
獅童 「過去への敬意、未来への夢」ですよ。400年という歌舞伎の歴史を作り上げてくださった先人への敬意、これは絶対にないといけない。一方で、今新作を作って50年100年経ったら古典になるわけです。そのとき僕らは誰もいないけど、作品が残っていれば古典。100年後もかっこいい歌舞伎界であってほしいから、自分たちがこの世からいなくなった後も生き続ける作品を作りたい。
菊之助 僕は父や先輩方が新作を作られる姿を間近で見てきたからこそ、自分も目標を持って新作を作りたいと思うようになったんです。自分が作ったものが残っていって古典になったらいいし、同時に、新しいことに挑戦するのが先人に敬意を払うことにもつながると感じます。
――最後に、菊之助さんは『FFX』と古典歌舞伎の、物語としての共通点はどんなところにあると感じていますか?
菊之助 互いを思いやる心、それから深い愛があるところです。名作の歌舞伎にはすべて「仁・義・礼・智・信」という心がありますが、『FFX』にもそれがある。これは日本人が古来から大事にしてきた心なので、そういう意味でも『FFX』は非常に歌舞伎にふさわしい作品だと感じています。
■取材・文/WEBザテレビジョン編集部
撮影/須田卓馬
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)