「日本総合悲劇協会」の3作目として、’02年に荻野目慶子主演で上演された衝撃作「業音」。“悲劇”をテーマに、限りなく深い人間の“業”の闇を描いた大人計画の代表作が、15年ぶりに再演される。
今回は’02年に荻野目が務めた元アイドル役を平岩紙が演じ、フランス・パリでの海外公演も行う。
本作の作・演出を手掛ける松尾スズキと主演の平岩に、見どころなどを聞いた。
――まずは、再演に至った経緯を教えてください。
松尾:もともと再演したいと思っており、いろいろキャスティングを考えていたのですが、主役を受けてくださる方がなかなか見つからなくて。平岩に「どうなんだ?」という話をしたら、「そこまで言われるならやります」ということで決まりました。
平岩も最近は随分ポップな存在になってきて、“平岩紙”という名前が一人歩きしている印象もありますが、「それを打ち壊す演技をしてほしい」という思いはあります。平岩には、それだけの実力があると思うので。
‘12年に「ふくすけ」というお芝居をやって、平岩にはサカエという難しい役を演じてもらいました。その出来が本当に良くて、「いつか平岩が主役で何かできないかな」と思っていたんです。
――平岩さん、今のお話を聞いていかがですか?
平岩: CMだと落ち着いた母親役などが多いんですけど、テレビだけでしか私を見たことのない方にも、ぜひ私が育ってきた劇団の舞台を見ていただきたいですね。いい意味で、そういう方の期待を裏切りたいです。まだまだ、私のことを知らない方も多いので。
――今回は主演ですが、今の心境はいかがですか?
平岩:私、あまり主演だとは思っていなくて、皆さんと一緒に作り上げていく一部だと思っているんです。すごく大きな事としてとらえていないし、あまりいつもと変わらない心境ですね。先輩方と読み合わせをして、どうなるかなという楽しみの方が大きいです。
「業音」は大人計画の中でも一つだけ特別な作品で、どのジャンルにも属さない作品だと思うんです。初演の時は、私自身まだあまり経験を積んでいなかったのですが、15年がたっていろいろな経験を積んだので、今の自分にできることをやりたいと思います。
――初演時の台本を読ませていただいたんですが、固有名詞や社会状況など、’02年当時の雰囲気がすごく伝わってきました。今回、そういう時代背景の部分は書き直しされますか?
松尾:そうなるでしょうね。逆に、時代の雰囲気を出す固有名詞を減らすと思います。もうちょっと、台本として普遍的なものにしたいと思っています。
――松尾さんにとって「業音」はどういう作品ですか?
松尾:「悪人会議」として、20年くらい前に「ふくすけ」という作品を初めて外に書き下ろして上演したんです。その時に、「笑いのない芝居でどれくらい通用するか?」というのを自分に課してみたんです。結局、笑いはありましたが。あの時の“悲劇”を「別の形でやってみたい!」と思ったんです。最終的には全然笑えなくなってもいいような、残酷な話を書いてみようという気持ちはありましたね。
それから、(渋谷Bunkamuraシアター)コクーンで上演した「キレイ~神様と待ち合わせした女~」という芝居で、初めていわゆる商業演劇をやった反動みたいなものも自分の中にありました。「マスにパッと開いた自分の作風をもう一回小さな所で凝縮した形でぶつけてみよう」みたいなのもありましたね。「『キレイ―』が松尾スズキの本体ではないよ」ということを示さなきゃいけないと思ったんです。
――平岩さんは、松尾さんの作品のどういうところに引かれますか?
平岩:やっぱり、声に出して言いたくなるせりふですね。普段、台本を読んでいてなかなか入ってこないせりふがあったりするんですけど、松尾さんの台本のせりふは詩みたいにリズムがあって、きれいで覚えやすいんです。変な動きとかしても、そのせりふと連動して何だかやりやすくなるのが不思議ですね。
――「業音」での松尾さんの演出はどんな感じでしたか?
平岩:いつも少し上のことを言ってくださって、少し上だから頑張ればできるんです。それがどんどん積み重なって高い所に行けるっていうのが、松尾さんの演出だと思います。徐々に高い所に行き、いつの間にかいい所に連れていてくれるという印象です。
――今年は「キャバレー」も再演されていますが、今後もいろいろな作品を再演していかれるんですか?
松尾:どんどんやっていこうかと思います。見たことのない人の方がどんどん増えてきていますからね。もったいない気がして。もちろん、新作も書いていきます。
――最後になりますが、「業音」の見どころをお願いします。
松尾:劇団員がここまでそろってやる芝居っていうのはなかなかないし、その中で、自分たちが出せる濃厚な雰囲気をとことん追求していきたいと思っています。
平岩:台本をもう一度読んでみて、「自分自身の中でどうせりふが出てくるのかな?」という楽しみもあるんですが、捉え方がきっと昔とは変わっているだろうし、もっともっと深い所で「業音」と向き合える稽古ができるのがうれしいです。「どこまで穴を掘っていけるのかな?」みたいな感じはあります。やっぱり、原点である劇団でお芝居できるというのが、うれしいです。年を重ねて、演技が楽しくなってきた部分はあるので、どこまでいけるか挑戦です。その姿を見てほしいですね。
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