黒澤明監督の映画『影武者』<4Kデジタルリマスター版>が6月8日、東京・有楽町のTOHOシネマズ日劇で特別上映され、上映後に主演の仲代達矢が登壇してトークを繰り広げた。
同作は、武田信玄の影武者を務めることになった泥棒の数奇な運命を描く戦国巨編。1980年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドールを受賞し、当時の日本映画の興行成績で歴代1位にも輝いた。
84歳になる仲代は、46歳で出演した本作について「黒澤さんの映画では、役者はアスリートなんです。スタントを使わないので、救急車が10台も待機していました。北海道のロケで落馬した時は、治るのに1ヶ月かかると言われましたが、たくさんの役者と馬を待たせてしまうので、1週間で病院を逃げ出しました」と振り返った。
268日に及んだ撮影現場について、「長篠の戦いのシーンでは、北海道中の獣医さんに頼んで、馬に睡眠剤を注射して撮影しました。やがて麻酔が切れて馬が動き出すと、黒澤さんは『馬は動いていいが、人間はじっとしていろ』(笑)。馬に踏まれそうになった役者たちが、いくらなんでもひどいじゃないかと、撮影を3日間ストライキして…」と、壮絶な舞台裏を明かした。
本作は当初、勝新太郎主演で撮影が進んでいたが、現場で黒澤と衝突した勝が降板。黒澤映画の常連だった仲代が代役を務めるといういきさつがあった。大ニュースとなった降板劇について、仲代は「勝さんから『こんど黒澤組でやるんだけど、どうだい?』と聞かれたので、『勝さん、黒澤さんの言うことは全部聞いた方がいいよ』とアドバイスしました。勝さんは『そうかい、じゃあそうするよ』とは言いましたが、ちょっと危ないなーと思いました(笑)」と、仲の良かった勝とのやり取りを語った。
さらに、「代役を務めることになり『出させていただいて光栄です』とコメントしたら、『光栄とは何だ。役者の仁義に反する、あるまじき言葉。断ればいいじゃないか』とお叱りを受けました。二役のうち信玄はいいとして、泥棒の方はどうしても勝さんの幻影を引きずってしまいました。でも最終的にカンヌで最高賞を獲れて、やっと解放されました」と、当時の心境を打ち明けた。
そして、話題は主演最新作の『海辺のリア』(小林政広監督)に。「リア王」をモチーフとした黒澤監督作『乱』で主演を務めた仲代が、『用心棒』を彷彿とさせる「桑畑兆吉」という名の老いたシェイクスピア俳優を演じるという、仲代ならではの設定が話題を呼んでいる。
パジャマ姿で海辺をさまよう老優を演じる仲代は、「自分と重なる部分は多いと思いますが、あまり意識せずに撮影しました。認知症という深刻な問題を扱っていますけど、どこかパロディーめいているというか、『老いてますます自由になり、世をまっとうする』『人間はいつか必ず死ぬ。死ぬまでは楽しくやろうよ』というような、自由人を描いた映画です」と語る一方で、
「長いんですよ、ワンカットが(笑)。昔はフィルムだと10分ですが、今はデジタルだから20分でも30分でも回せる。若い役者さんを相手に一生懸命盗みながら、これが最後のつもりで頑張りました」と、苦労をにじませつつ、話を締めくくった。
日本映画専門チャンネルでは、「特集 役者 仲代達矢」と題し、『影武者<4Kデジタルリマスター版>(※2Kダウンコンバートにて放送)』『用心棒』ほか、仲代出演作品を特集して放送中。
取材・文/青木ポンチ
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