モウデ・モード:エッセイ/小林私「私事ですが、」

2023/01/21 20:00 配信

音楽 コラム 連載

美大在学中から音楽活動をスタートしたシンガーソングライター・小林私が、彼自身の日常やアート・本のことから短編小説など、さまざまな「私事」をつづります。

ビジュアル:小林私


前回の原稿が年明けと言いつつ、実際に年を明けてから書き始めているのはこの原稿である。
今まではあまり気にしていなかったが近頃は書き上げてから大体二週間後に公になるというのを覚え始めた。
職業柄、季節どころか曜日も曖昧になるので連載くらい年中行事に触れてもいいだろうと、そういう心持ちである。

初詣を本当に初めてしたのは、確か大学一年の冬休みだった。
免許を取得したてに地元の友人と車で初日の出を見に行き、その帰りに神社かなにかに行った記憶がある。
特になにか強く信仰があるわけでもなく、その日も祈ったんだか祈ってないんだか覚えていない。
そもそも中学生くらいの時分は寺社仏閣といった聖なる場所を嫌がることが(己が邪であると暗に示すのが)格好いいと思っていたので、自然と足が遠のいていた。そう言いつつ祭りなんかには行くのだから都合がいい。

以来初詣を特にしなかったし、今年もどちらでも良かったのだが、近所にミッション系の大学と稲荷神社があって、何も思わずとも思ってしまうような暮らしなので、寒さに気持ちが負けなければ行こうと考えていた。結構な気持ちの変化である。

一人暮らしになってから、当然だが生活様式がずいぶん変わった。
実家で暮らしていた頃は常に落ち着かなく、暮らしているというよりはただ生きているだけだった。
家族と鉢合わせるのを極力避ける為の術ばかり身につけて、洗い物や洗濯物がなるべく出ないようにコンビニ飯を食べ、毎日同じ服を着ていた。今は洗濯物を干し、皿を洗いながら「俺はいま”暮らし”をしている...」とうっとりしている。気持ちはZORNの“My Life”、もしくはCRYAMYの“物臭”。

そんな流れもあって、最近は行事に対してけっこう積極的である。普通っぽい、空想上の皆が日々紡いでいるであろう、ちゃんとした暮らしへの憧れを昇華させているのだ。余談だが先日自転車も購入した。六年ぶりに自転車を漕いだ。非常に良い、暮らしっぽい。ただ運転は全然覚束ないので本当に気を付けたい。

実際の大晦日はどうだったかというと、年越しそばを食べながらずっとどこかの寺(神社だったかも)が流している定点の映像配信を見て、その後は満腹になって年越しの瞬間を寝過ごしてしまった。結局午前一時過ぎに起きて、寒さに震えながら神社に向かってみたら全てが終わっていた。何か燃やしていたであろう残骸を神社の人達が片付けていて、余ったのであろう祝い箸とみかんを貰った。

気持ちは気持ちのまま変化していくこともあるのだな。

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