アイドルを卒業して暫くして、私は上京した。
上京後は声優学校に通い、芝居を学んだ。
一方で何かと仕事にも恵まれ役者としてのオファーもあり、2月に控えた舞台のため稽古に励む日々を送っていた。
2020年の正月。Kさんを知るとあるファンからDMで連絡が来た。
「Kさんが重病で入院して夜道のイベント行きたいけど行けない状況らしい。
本人も「また夜道に会いたい」って言ってるが、なかなかリプとかも出来ないんだと。
なんかきっかけ作って夜道から応援メッセージあげられないかな、何とかならんかな。」
との事だった。
Kさんが重病。
胸がざわついた。そういえばここ最近、リプを見なくなった。
Kさんは控えめな人。舞台稽古中で忙しない生活を送る私に心配をかけないためにも、リプライを控えていたのだろうか。
私は焦ってKさんのアカウントを確認しに行った。
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2019年11月21日
夜道雪、二十歳を満喫している模様
誕生日おめでとう!
2019年11月27日
体重 50kg切ってた
2019年12月13日
本日の体重
47.8kg
さらに減った…どうなってんだ?
2019年12月24日
まぁ、なんといったらいいのやら..
今まで流されて生きてきた分、ここで今後の人生を決めると言われても厳しいわ
親よりも先に死ぬのだけはやめとこうと思っていたけど、こうなると自分の意思だけじゃどうにもならないなー
後は運次第か…
2020年1月1日
新年は病院で迎えることになりました。
ご飯が食べれるようになりたい..
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重病とは聞かされていたが、すぐに察しがついた。
予想通り、Kさんはがんらしい。
ステージ3〜4らしく、残念ながら既に末期だと。
一瞬にして頭の中に色々な考えが浮かんだ。
Kさんが死んでしまう?
いや、死ぬかもって考えてたら、本当に死んでしまうかもしれないから考えないようにしよう。
でももし本当に死んでしまったら?
私と体重がほぼ一緒。
記憶にあるKさんは中肉中背で、至って健康的だった。
まさかたった半年そこらでそこまで痩せ細ってしまうものなのか。
そんなに弱ってしまったということは、もう死んでしまうということなのだろうか。あんなに若いのに、あんなに元気だったのに。
たくさん会いにきてくれたのに。
もう一生、会えなくなるのか?
2020年1月2日
KさんにDMをおくった。
「Kさん!お久しぶり!
ツイート見て心配になって連絡しました。
身体大丈夫ですか?」
私なりに[死]をイメージさせないように。
これまでのライブの交流タイムでのくちぶりを意識した、なんてことのない軽くいつも通りの文章を、長時間かけて作った。
何度も何度も消しては書いてを繰り返した結果、このような短文になった。
「おはよう!久しぶりだね^^*
ちょっと大病を患っちゃって闘病中…
体調が回復したらイベントとかに顔出したいとは思っているよー(^^)」
「てことは良くなりそうなの? 久しぶりに会いたいわ!」
「良くなるかどうかは正直わからんw
嘘ついたり隠したりしてもしたかないから言うけど、癌なんだよね(´Д`)」
知っていた。でも本人から告げられるとまたさらにショックが大きくなった。
Kさんに会いに行かなくては。
とてもお世話になった。直接感謝を伝えたい。
でもこれをKさんはどう思うだろうか。
無論、これまでファン1人のために会いに行った事などないのだ。
謙虚なKさんは、そういう特別対応を望むのだろうか。申し訳なく感じないだろうか。
それ以上に、そんな特別対応をしてしまったら
「生きているうちに会いに行こうとしている」「自分の死を悟られた」と思われないだろうか。
余計に、死をイメージさせる事になるかも。
色々な考えが脳裏に浮かんでくる。
明らかに弱ってしまっている人間に対して、どう接していいのか、私にはわからなかった。
「お見舞いいっていい?久々に会いたいよ!」
Kさんは案の定、やんわりと断ってきた。
「そもそも遠いよ。きちゃダメではないけど、いつまでここに入院してるかわからないし!わざわざ(お見舞いのために)北海道にくることになるでしょ? 大丈夫?」
Kさんは謙虚で控えめな人だ。
だがこの時ばかりは、謙虚さから断っているだけではないのかもしれないと想像してしまった。
単純にこれまでと違う自分の痩せ細った姿を、推しにみられたくないのかもしれない。
私がKさんだったら、そう思うかもしれない。
だとしたら私のやってることって空回りしてるかも。
そんな感情が頭の中でぐるぐるして、会いに行きたい気持ちは胸いっぱいにあったのに、強くお願いする事ができなかった。
Kさんからは、
「近い日にならないと面会できるかわからないから6〜7日くらいにまた連絡するね、北海道楽しんでね!」と返信が来て、その日のやりとりを終えた。
1月4日
Kさんの状態が気になってしかたなかった。約束した6〜7日より2日ほど早いこの日、私から連絡をした。
「体調どう?」
「正直、あんま良くない^^;
お見舞いに来てもらっても対応出来なそうだから、今回は遠慮してもらおうかと思ってたとこ。
せっかく休みまで取ってもらったのに、ゴメンね」
「そっか…身体が心配よ。
何かできることある?」
「大丈夫だよ、ありがとうね!
体調が良くなるようなら連絡するよ^^*」
頻繁に更新されていたTwitterアカウントは、新年が明けてからは殆ど動かなくなってしまった。
それほど体がつらかったのだろう。
それでもきっと良くなると信じて、
Kさんが会いにきてもいいと思える日を待つことにした。
1月13日
私の成人式があった。
Twitterに成人式での写真を載せたところ、Kさんがリツイートしてくれた。
Kさんの久々のTwitterの更新だった。
「体調は大丈夫?」
と連絡したがその日は返信がなかった。
1月16日
Kさんから返信が来た
「調子が悪い時に心配してくれてありがとうね^^*
ゆきちゃんこそ早く良くなるといいね!
自分も調子いいとは言いきれないけど、明日から新しい治療に取り組む予定だよ(´Д`)」
「そっかそっか…
よくなるといいね( ;´Д`)」
文字を打つのもつらい状況だったのだろうか。
元気な頃のKさんは私のツイートのリツイートとお気に入りはどれも毎日欠かさずしてくれていた。
DMのやりとりは、日に日に返信が遅くなっていき、数日間、返信が来なくなることが多くなった。
自分の連絡が負担になっていないか、とても不安だった。
2月3日
いつものようにDMを送った
「元気かな?」
2月6日
「こんばんは
返事が遅れてごめんね^^;
また治療をして、その後熱が出て安静にしてたよ(>_<)
んで、熱がやっと収まったねとこ(^Д^)」
おっ、軽く誤字った^^;
まだボーッとしてるかな…」
「そっかそっか涙 早く良くなるといいな」
「ありがとうね(^^*)
いろいろイベントなどあるみたいだし、準備に稽古など頑張って素敵な舞台にしてね 」
「うん!!!!Kさんまたあいにきてー!」
意識朦朧としていてスマホを持つのがやっとなのだろうと察した。
DMへの返信は今のKさんにとってはきっと重労働だ。
控えた方がいいかもしれないという気持ちと、もう話せなくなるかもしれないから、という気持ちが頭の中でぶつかり合っていた。
2月13日
また断られてしまう事を覚悟して、最後のお願いをした。
「最近はなにしてるの?
仕事たくさんはいっててさ、今月は忙しいんだけど、その分来月とか会いてるからKさんが元気な時で大丈夫だから会いに行きたいな!」
Kさんはもう死んでしまう。
二度と会いには来られないし、
会うこともできなくなる。
だからKさんへの負担だとか、気持ちとか全部無視して、会いに行きたい。
一度は断られている。それでも、
この世に残され生きていく自分のために。悔いが残らぬように。
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