「アナ雪」で日本のファンも熱狂させた“エンターテインメントの女王”イディナ・メンゼルの軌跡

2023/01/26 06:10 配信

音楽 コラム

「イディナ・メンゼル:マディソン・スクエア・ガーデンまでの道のり」が、1月20日に配信された(C) 2022 Disney

「アナと雪の女王」のエルサ役などで知られるイディナ・メンゼルには長年の“夢”があった…。彼女のマディソン・スクエア・ガーデンでの公演までに密着したドキュメンタリー作品「イディナ・メンゼル:マディソン・スクエア・ガーデンまでの道のり」が1月20日に配信された。2022年12月に配信予定だったものの直前に延期となってしまっていただけに、いっそう待ちきれない思いでいた方もいるだろう。今回は国内外の幅広い音楽に精通する音楽ジャーナリスト・原田和典氏が、イディナ・メンゼルについて紹介する。

“本家アナ雪”として日本でも話題

「イディナ・メンゼル:マディソン・スクエア・ガーデンまでの道のり」がディズニープラスで独占配信中(C) 2022 Disney


イディナといえば、権威あるトニー賞の受賞者であり、ブロードウェイで上演された数々のヒットミュージカルでも重要な役割を担ってきた大エンターテイナー。日本ではテレビドラマ「glee/グリー」のシェルビー・コークラン役、および「アナと雪の女王」のエルサ役の声優兼主題歌「Let It Go」の歌唱アーティストで、すっかり幅広いファンの心をつかんだといっていいだろう。2014年の「第65回NHK紅白歌合戦」(NHK総合ほか)でのスペシャルコラボレーションをご記憶の方も多いのではないか。

そのイディナが、ちょっと前までマディソン・スクエア・ガーデンでコンサートを行っていなかったとはびっくりだが、今作の予告編を見ても、彼女がいかにこの日を楽しみにしていたか、万全のコンディションで取り組んでいるかが分かる。集大成であると共に、未来への決意表明にもなっている力作映像なのではないか。

8歳の時からクラシックで基礎固めをし、ユダヤの成人式である“バル・ミツワー”や結婚式場の歌手として修業を積み(アメリカのウエディングには、往々にして楽団がつきもの)、ジャズやソウルミュージック、ロックやポップスを養分としつつ、演技の面でもしっかり実力を身に付けながら、イディナは現在の地位に到達した。ポップスに目覚めてから、最も影響を受けたのはバーブラ・ストライサンドであるという。

ブロードウェイ・デビュー作は「レント」

「イディナ・メンゼル:マディソン・スクエア・ガーデンまでの道のり」より(C) 2022 Disney


バーブラといえば1960年代から歌手・役者として第一線に立ち続ける超大御所で、日本には1970年代に一度、映画「スター誕生」のプロモーションで訪れた限りだが、今なおアメリカでは最高に観客を呼べる、最高に高額なアーティストの一人であるはずだ。バーブラはまた、誇り高きユダヤ系でもあり、イディナも同じユダヤ系女性として、彼女の音楽性はもとより、ライフスタイルにも敬意を払っていると思われる。

そんなイディナがニューヨーク・シティ生まれなのは、この仕事をする上で、いろんな点で有利に働いたことだろう。「上京」の手間が要らないからだ。ニューヨーク大学の「ティッシュ芸術部」で演劇の学位を得て、ブロードウェイ・デビュー作となった「レント」、モーリーン役のオーディションに合格したのは1995年、24歳の時。トニー賞の候補になる幸運にも恵まれたが、歌手活動はまだまだ鳴かず飛ばずで、1998年には初アルバム『Still I Can't Be Still』を出したものの、売れ行きは1万枚以下に留まった。