アカデミー賞・助演女優賞の獲得なるか「ブラックパンサー」続編でA・バセットが見せた堂々たる演技

2023/02/03 12:08 配信

映画 コラム

その後、暗殺されたマルコムXの遺志を継ぐ形で結成されたブラックパンサー党を描いた映画「パンサー」(1995年)、4人のアフリカ系アメリカ人女性の友情や生き方をつづったロマンティックコメディ映画「ため息つかせて」に出演。「パンサー」の“ブラックパンサー”つながりは偶然だが、「ため息つかせて」はバセットをはじめ、サバンナを演じた歌手のホイットニー・ヒューストン、ロビン役のレラ・ローション、グロリア役のロレッタ・デヴァインなど、主な出演者がアフリカ系アメリカ人で、監督を務めた俳優フォレスト・ウィテカーもアフリカ系アメリカ人というところなどは、キャスト&スタッフの大半が黒人の「ブラックパンサー」シリーズに通じるものがあるように感じる。

さらに、メリル・ストリープと共演した「ミュージック・オブ・ハート」(2000年)、ロバート・デ・ニーロ主演の「スコア」、野球をテーマにした「Mr.3000」、アクションスリラー作品「エンド・オブ・ホワイトハウス」(2013年)とその続編「エンド・オブ・キングダム」(2016年)、「エンド・オブ・ステイツ」(2019)などに出演し、印象深い演技を見せてくれた。

そして、「ブラックパンサー」「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」。この2作品で演じた“ラモンダ”がバセットにとって新たな当たり役、ハマり役となり、世界中の人たちの胸に深く刻まれることとなった。

ラモンダは、先代のワカンダ国王ティ・チャカの妻であり、ボーズマン演じるティ・チャラとレティーシャ・ライト演じるシュリの母親。「ブラックパンサー」の撮影時、すでにボーズマンは闘病中だったが、そのことは伏せられていてバセットをはじめとする共演者も知らなかったという。続編では息子ティ・チャラの死後、ワカンダの王座を引き継いだのがラモンダ。夫、そして息子を相次いで亡くした悲しみをこらえて王位に就いたラモンダの気持ちと、主演したボーズマンを亡くし、役柄としても役者としてもより責任感の大きさを痛感したバセットの気持ちは重なるところが大きかったのではないだろうか。

娘のシュリは天才的な頭脳の持ち主で、若くしてワカンダの技術開発チームを率いていた。しかし、ティ・チャラの急逝にショックを受け、しばらく自分のラボに閉じこもって出てこなかった。若いシュリがそれほどの衝撃を受けるのは当然のことだろう。しかし、ラモンダに悲しみに打ちひしがれている暇はなかった。母親としてシュリを優しく気遣いながらも、ワカンダだけが所有する貴重な鉱石“ヴィブラニウム”を守るため、すなわちワカンダを守るために諸外国を相手に毅然とした態度で立ち向かい、渡り合った。

今作ではラモンダが国連の総会で世界各国の首脳陣と対峙(たいじ)するシーンも見られるが、そのりりしさ、力強さ、存在感、全てが重厚で威厳のある姿に思わず引きつけられてしまう。

この作品でバセットはゴールデングローブ賞の助演女優賞を受賞した。さらに「第95回アカデミー賞」で、バセットは助演女優賞にノミネートされている。MCU作品の演技部門でのノミネートは今回が初めてで、新たな扉を開けることとなったが、本作での威風堂々たる演技を見れば納得のノミネーションと言える。

◆文=田中隆信