やっと見つけた、まだまだ頑張りたいと思える私の居場所。『ラブカは静かに弓を持つ』/佐藤日向の#砂糖図書館

2023/02/11 20:00 配信

アニメ 連載

佐藤日向※提供写真

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。
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普段レコーディングをする時、私は基本耳コピで楽曲を覚えている。
楽譜が読めないからだ。
この話をすると驚かれることが多いが、私の体感だとこの業界で楽譜が読めない方は意外と多い。楽譜が読める読めない関係なしに、音楽が大好きだという気持ちを表に出してもいいと知ったのは、つい最近である。

今回私が紹介するのは安壇美緒さんの『ラブカは静かに弓を持つ』という作品だ。
安壇さんの作品は今回初めて読んだのだが、あまりにも繊細な文章たちに読み切るのが惜しいと、中盤からずっと感じていた。

本作は、日本で発信される音楽全ての著作権が厳しく管理されている設定で描かれた話だ。
主人公は幼少の頃チェロを弾いていたが、誘拐されかけたことがトラウマになり、チェロを弾けなくなってしまう。そして時を経てトラウマの影響で人付き合いがうまくできなくなってしまい、27歳になった主人公は音楽教室の著作権侵害を探るため、潜入捜査員としてチェロを習いに音楽教室へ2年間通わなければならなくなる。音楽教室で人の優しさに触れ、少しずつ人間らしさを取り戻す、まるで地上で深海に生息するサメ=「ラブカ」が息をするまでの過程を見ているような作品だった。

私自身、人付き合いはとても苦手だ。ラジオ番組もいくつか持たせていただいているのもあって、誰かと話すのはすごく好きだし、自分と違う職業の方とお話しする機会はすごく楽しい。それもあって人付き合いが苦手と話すとなかなか信じてもらえないが、改めて自分のことを見つめ直してみると、多分私の場合は同い年とどう接したらいいのかが分からなかったように感じる。

だから、作中の主人公が学生時代の友人とはもう誰とも連絡を取ってないと書かれていた時に、ものすごく親近感が湧いた。自分の憧れの人や趣味が合う人、高め合える人というのは、一緒にいてすごく、落ち着く。

だが、歳が近い子と過ごす時間は、私にとって違う言語で話しているくらい違和感を覚えてしまう。そんなにコミュニケーションをとったことがないのに「日向ちゃんは芸能の仕事してるもんね。どうせ、私と違うもんね」と言われ続けてしまうと、どう接したらいいか分からない。

相手の気分で無視をされると嫌だなという気持ちよりも、今日は話しかけていい日なのか考えることが面倒くさくなる。

私は人よりも気が強く、こだわりも強いから、発する言葉が相手に強く伝わり過ぎてしまうことがある。自覚症状ありだ。だから、相手の気分で、ではなく、もしかしたら理由があったのかもしれないが、そういったことが続くと、人間関係の構築を諦めてしまう。

そんな私にも、本作の主人公と同じ界隈で憧れて、尊敬して、頑張りたいと思える居場所ができた。この場所がある限り、私はきっとまだまだ頑張ることができる。ラブカのように深海でしか息ができなかった私も、地上で呼吸できる場所を見つけた。読んでいるだけでクラシックへ興味が湧き、目から音楽を感じられ、人と会話をしたくなる、そんな至極の一冊で、是非「深海」に潜ってみてほしい。読了後には新たな自分に出会えているはず。

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