コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回ピックアップするのは、中年料理人と奔放な少女の旅路を描く漫画『クレイジーフードトラック』だ。
作者の大柿ロクロウさんが2月2日に本作をTwitterに投稿したところ、1.5万を超える「いいね」が寄せられ、「ワクワクする」「めっちゃお腹すく」「アニメ化待ってます」といったコメントが集まっている。この記事では大柿ロクロウさんに話を伺い、創作の裏側などを語ってもらった。
フードトラックを走らせる中年料理人・ゴードンは、今日もリズミカルにベーコンレタスサンドを作っては頬張る。枯れた世界・砂漠ではお客さんが来ないこともしばしばだった。ラジオを聞きながら車を走らせているといきなり目の前に障害物が現れる。
貴重なビールを犠牲にしながらも必死の思いで避け、障害物の正体を確認すると、冷暖房寝袋だった。そっと寝袋に向かって声をかけると、裸で眠る少女・アリサが現れたのだ。お腹が減っている様子で料理を作ってやるとアリサは一心不乱に食べている。
アリサを乗せたまま、フードトラックを走らせていると謎の武装集団に足を止められる。武装集団はある少女を探しているようだ。写真を見ると、そこにはアリサの姿が。いつの間にか車から脱出したアリサは武装集団の1人を襲い、みんなは臨戦態勢に入る。
そんな時、ゴードンはアリサを応戦し、アリサをかくまったまま武装集団から逃げることを決意する。武装集団のチームに追われるフードトラックだが、トラックにはとんでもない仕掛けがあり…。
中年料理人と奔放な少女が軍に追われながらも自由に旅をするロードストーリーを描いた本作。Twitter上では「おじさんと女の子のコンビって最高」「アクションと飯の融合がいい!」「ゴードン何者?」「今後が気になる…」など、読者から続きを期待するコメントが多く寄せられ、反響を呼んでいる。
――『クレイジーフードトラック』はどのようにして生まれた作品ですか?創作のきっかけや理由があればお教えください。
元々の土台になっているのは僕の読切デビュー作品で、近未来の砂漠に飲み込まれた世界を舞台にしたSFアクションものだったんです。その後、久しぶりにその世界観で「BEER」という同人誌を描いたら、月刊コミックバンチの編集さんに「このBEERをもとに連載作品を作りませんか?」というありがたいお話をいただきました。コミックバンチは青年誌なので、少年誌ではなかなか描けなかった大人向けの作品が描きたいなと思いまして。
ハードボイルドなアクションもので、主人公は渋くてカッコイイ中年男性とセクシーで強い女性のバディものがいいかなと。その二人が砂漠の世界で旅をするなら、移動手段はどうしようと考えた時に、フードトラックにすれば自分の好きな「料理」という題材も組み合わせれるし、SFでフードトラックというのはあまり見たことがないので面白くなりそうだなと。フードトラックを使いたいなと思ったきっかけは「シェフ~三ツ星フードトラックはじめました」という映画です。フードトラックというと公園やスーパーで軽食を販売するためのものというイメージだったんですが、この映画ではキャンピングカーのように旅をしながら訪れた街で販売していくんです。旅先で出会った人から具材を仕入れて新しい料理を作ったり、それが評判になっていったり…最高に楽しい映画なんですよ。
クレイジーフードトラックには「シェフ」だけではなくアメリカンニューシネマの名作の数々や、大好きな映画へのオマージュがたくさん入ってます。…というように、自分の色々な好きなものや描きたいものを詰め込んでカタチになったのが「クレイジーフードトラック」です。
――『クレイジーフードトラック』の中で特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共にお教えください。
第1 話で主人公のゴードンが「…まったく狂った世の中だ。生き抜くためには備えがねぇとな」と言いながらフードトラックに搭載された大砲をぶっ放すというイカれた行動をするシーンですね。元軍人であるゴードン本人にとってはいたって通常の自衛的な行動なのですが、フードトラックが高機動車3台を大砲で破壊するのはかなりクレイジーですよね。1話から速攻でタイトルを回収するところもわかりやすくてとても気に入ってます。
あとは15話、物語の終盤でゴードンとアリサが「フェイフォンフェイフォン ゴナハバグッタイ」とか適当な英語で歌いながらドライブしてるシーンが大好きです。ほんの少し前に偶然出会った二人が一緒に旅しているうちに波長があって意味もなくゴキゲンになってる状況というのはたまらなく幸せな瞬間だなと思って描きました。こういうストーリー上あまり重要ではないシーンはカットになることが多いのですが、こういうシーンにこそ作品の本質みたいなものが生まれることも多いので、このシーンはカットされることなく描けて良かったです。
――一方で描くのが難しかった場面はありますでしょうか。
1番ネームが難航したのが3話の「BEER」という回です。僕はこの物語を大人向けな青年誌として描こうと思っていたんですが、ふと気がついたら3話の展開が「2人は辿り着いた街の問題を解決してまた次の街へ行くのであった」…という極めて少年マンガ的な話になっていたんです。
少年漫画の経験が自然に出てしまう自分と、青年漫画に挑戦してる自分とで葛藤が生まれてしまい、なかなか落とし所が難しかったですね。結果的に3話はその葛藤によって良いバランスの話ができたかなと今では思っています。
――本作に限らず、作画をする上でこだわっていることがあればお聞かせください。
漫画はキャラクターとシナリオがもちろん重要ですが、同じくらい重要なのが「読みやすさ」だと思ってまして、読者がセリフを読むだけで自然に物語に必要な情報が視線に入ってもらえるように、コマ割りやフキダシ、キャラ位置、背景などを配置するように心掛けてます。
漫画は「コマとフキダシと絵で構成されたページをめくって物語を展開する」というフォーマット自体が神なので、少し気を配って読みやすくしてあげるだけで読書欲を刺激されるようにできてるんですよ。あとはそこに魅力的な絵と台詞を入れるだけで、素晴らしい作品ができあがります。
……とまあ理屈は簡単なんですけどね。あとはここぞという時にはキャラクター達のとびきり良い表情を描いてあげたいですね。キャラクターとのシンクロが上手くいって気持ちが乗った時は独特の快感と感動がありまして、その感覚に入ると良い表情が描けてたりするんですが、そこに辿り着くには画力や憑依力など色々必要なのでなかなか難しいですね。精進いたします!
――『クレイジーフードトラック』では、軍に追われる2人と料理という交わることのなさそうなテーマの組み合わせが印象的です。漫画のテーマを考えるときにはどのようなことを意識しているのでしょうか?
僕は「テーマを考えて漫画を描く」というよりは「自分が好きなものを描くことがテーマ」という感覚です。人生は一度きりですし、人生の中で描ける作品数は限られてる訳ですし、自分が心底好きなものを描かないと結局面白いものは描けないですしね。映画や漫画などの好きな作品からだけでなく、これまでに出会った人や経験とか、人生の中で影響を受けたものすべてが繋がった先に作品は生まれてくるので、日々を楽しく懸命に誠実に生きていくことが作品のためにも大事なことな気がします。漫画は総合的な創作物なので、どうしても描く人の人間性が出るんですよ。
以前、俳優の神木隆之介くんに漫画の描き方を教えさせていただいた時にも感じたのですが、実際にお会いしたらイメージ以上に魅力的な方で、メロメロになってしまいまして。その時ほぼ初めて漫画を描いた神木くんの作品には、神木くんの優しさと誠実さと可愛さがとても出ていて、漫画ってやっぱり人間性が出て面白いなと思いました。だから僕も漫画のためにも魅力的な人になりたいなと思って日々を生きていますが、毎日奥様には叱られ、編集さんには毎度ご迷惑をおかけして、ムスメとも遊んであげないと嫌われます。でもそういう自分だからこそ描ける、人間性溢れる魅力的な作品を作りたいなと思いますね。
――最後に、作品を楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。
『クレイジーフードトラック』は好きなものを思う存分詰め込んで描かせていただいた最高に楽しい作品です。全3巻と短い連載にはなってしまったのですが、完結してからSNSで注目されたり海外で発売されたり、全3巻だからこそ気軽に手に取ってもらえる作品になったのかなとも思っています。
『クレイジーフードトラック』と同時に連載していた『アクダマドライブ』というアニメのコミカライズも間も無く完結を迎えるので、じわじわと準備中の次回作のオリジナル新連載を楽しみにお待ちいただければ幸いです。たぶんきっと面白い作品になると思うので、なるべく早く読んでいただけるように頑張ります!
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