声優、YouTuber、モデル、コスプレイヤー、そして2022年7月からは自身名義での音楽活動も。「マルチタレント」を掲げ、さまざまなジャンルで活躍する夜道雪(よみちゆき)のコラム連載、「夜道 雪のBlowin' the Night wind!(夜風に吹かれて!)」がスタート! 地元・北海道から上京し、現在の「表現者・夜道雪」が生まれるまでの道のりを、「夜道節」で綴っていきます。
私の夢の一つがタイムスリップだ。これは小さい頃から今に至るまで変わっていない。
江戸時代に行ってみたい。大名行列を見てみたい。平安時代の献立を味わいたい。本物の花魁を見てみたい。小さい頃に亡くなったおじいちゃんに会いたい。同い年の両親に会って話してみたい。侍や忍者に会ってみたい。夜のヒットスタジオをリアルタイムで見たい。美空ひばりさんの歌声を聴きたい。バイクブームの峠道を走ってみたい。バブル期の社員旅行の宴会芸を強要されてみたい。
そんな絵空事ばかり考えていた私の、ちょっとしたタイムスリップ方法を紹介していく。
22歳、母親のお下がりの着物に袖を通した。35年前に仕立てたちょっとした訪問着にも使えるような、格調の高い小紋。
母が22歳の頃に仕立てたそうだ。
それを22歳の私が着る。
傷まぬようゆっくりと正絹の長襦袢と着物に袖を通し、金糸銀糸がふんだんに織り込まれた美しい袋帯を締める。その時ふと、同い年の母と対面、あるいは追体験をしているような気がしてきて、まるでタイムスリップのように思えたのである。
すっかり虜になってしまった私は、中古の着物屋へ行った。
数えきれないほどの着物や帯がずらりと並ぶその店内で、一際目を引く帯を見つけた。
お太鼓結びをした時、丁度背中に凛々しい「寿」の文字が表れる、金糸が輝くきらびやかな帯に見惚れていると、店の奥から背筋がピンと伸びた着物姿のおばあちゃんがやってきて、「それは戦前のものよ。」と教えてくれた。
信じがたい事だ。そんなに古くからある帯がこんなにも美しい状態を保っているなんて驚きだ。
でも流石に年代物だけあり、柄はかなり渋い。これに見合うような着物は持っていない。何を合わせたらいいんだろう…
おばあちゃんはそんな私を見兼ねたらしく、
「きっとこの朱色の長襦袢と江戸解文様の着物が合うと思うわ。帯揚げと帯締めはサービスしてあげるわね。」
と話しながら、それらを手に私を試着室に導いた。
服の上から着物をあてがいながら、
「お嬢さん、古い着物がピッタリと合うのね。昔の着物は身丈が少し短いんだけれど、小柄だから丁度いいわ」
と私の気分を盛り上げる。お上手だったなぁ…
確かに私には、現代の既製品の着物が少し大きすぎて、いつもおはしょりを広めにたくし上げていた。
この着物の持ち主はわたしのように小柄な女性だったのだろう。いや、昔の日本女性だと考えたらむしろ少し背が高い方かな? 動きやすさを重視して、あえて短めに作ったのかも…
寿と織られた帯は、めでたい日のために大切に保管されてきたから、こんなに美しい状態を保っていたのだろうな…
なんて、着物の持ち主の体型や暮らしを想像することで、私は再びタイムスリップしたような感覚になった。
当時の持ち主と、大切に保管してきたご家族と、生地越しに会話をしたように思った。
私は小さな頃から、自分が産まれる前の事柄にとても興味があった。幼い頃の夢は忍者だったくらいだ。
無論、22世紀からドラえ○んを連れ去ってタイムマシーンに乗りタイムトラベルをするなんて、限りなく不可能に近い話なのだが。
長く在り続ける「物」たちが見てきた景色や出来事を想像している時間は、まるで自分もその時代を訪れているかのような気分にさせてくれる。
分かりやすく着物を例にあげたが、バイクでもタイムスリップできる。
この記事の関連情報はこちら(WEBサイト ザテレビジョン)