板尾創路「お芝居は上手くなりたくない」に初共演の松田凌も共感 不安定ないびつさを大切に

お笑いは個人競技、舞台はチームプレー

板尾創路(右)、松田凌(左)撮影=友野雄


――作・演出の甲斐さやかさんは今回が舞台初挑戦とのことですが、演出はいかがですか?

松田 甲斐さんはすごく柔和で優しい方で、ほんとにこの方が本作を書いたのかな…と思うくらいです(笑)。初演出だからなのかはわからないですが、共に作り上げている感があります。この作品はセリフの言い方ひとつで物語の動き方が違ってくるので、ディスカッションして考えながら繊細に作っています。甲斐さんが執筆された脚本ですが、演じる中で補正していく部分もありますね。(甲斐さんが)ちゃんと寝てるか心配です。

板尾 物静かな方です。映画監督ももちろん演出はしますが、映像だと手取り足取り指導するよりも、俳優さんの感性で動いて、気持ちを見せてもらう方がリアル。映画監督としての役者との向き合い方なんだろうなという感じで、立ち位置や動きを細かく指示はせずに、感情を優先してくれています。いつもやっている演劇の稽古より、みんなで作っている感覚があるんですよね。不思議な稽古です。映像のリハーサルをしているような感じがします。

――板尾さんはお笑い芸人としてコントなどを演じるときと、今回のようなストレートプレイのお芝居に出るとき、演技に感じる面白さはどんな風に違いますか?

板尾 芸人とコントやコメディをやるときは、「自分がどうウケるか、どう目立つか」を考えている人たちの集まりなので、個人競技。それに対して今回のようなお芝居は、出演者の1人として周りとうまく融合して、作品がよく見えるように。自分だけが気持ちいいお芝居じゃなく、引くところは引いて皆が活きるようにする、チームプレー的な面白さがありますね。

―松田さんは2.5次元作品にも多数ご出演されていますが、今回のようなオリジナル舞台との面白さの違いはどんなところですか?

松田 作品が違えば全部違うんですけど…原作がある、特に漫画やアニメ、ゲームといった日本のひとつのカルチャーになっているものは、その役柄自体をすごく愛している方々がいらっしゃるので、まずその役に完全に入り込む作り方をしないと見ていただけない。その面白さもありますが、今回のような作品はゼロから作っていけるので、俳優本人の表現方法に委ねられます。それを演出家さんにジャッジしていただいたり、ご一緒する演者の皆さんと押し引きを重ね合わせて、バランスをとりながら作っていけるのが楽しいです、とっても。

「お芝居は上手くなりたくない」2人の目指すところ

板尾創路撮影=友野雄


――板尾さんは、過去に「芸人なので、演技のうまさは目指していない」とおっしゃっていましたが、それは今も同じですか?詳しく教えてください。

板尾 お芝居は上手くなりたくないんですよ。「上手い」って、褒め言葉なんだろうけど、なんか違う。それよりも「泣きました」「笑いました」「腹が立ちました」って言ってもらう方が嬉しい。上手い人は、見やすいし、お仕事もいっぱい来るでしょうし、皆に愛されるんでしょうけど…あんまり面白くないなと思ってしまって。もっと不安定なほうが好きなんです。だから演技のテクニックは学びたくない。

――技術を追い求めるのではなく、自然体でいたいということでしょうか?

板尾 もちろん素のままでいいわけはないんですけどね。そのバランスを大事にしたいです。

――松田さんは、板尾さんのお芝居を近くで見ていていかがですか?

松田 今のお話を聞いていて、すごく共感しました。僕も「お芝居が上手い」ってよくわからないんですよ。何をもって「上手い」なのか。お客様にそう思っていただくのは嬉しいんですけど、そう言われたくないという板尾さんのお話はよくわかります。めちゃくちゃ芸達者で、円滑にお芝居をされても、感動しない人は感動しない。いびつな方が“人”を感じるときもある。未完成のままでいい…といったら語弊がありますが。お芝居を演じるってそれ自体が嘘じゃないですか。嘘をどこまでリアルにするかだから、完成されたものほどいいってわけじゃない。でも、だからこそ今回板尾さんとご一緒していて楽しいのかもしれない。

――お2人の目指す「『上手い』じゃないどこか」が似ているのかもしれないですね。

松田 自分なんかよりずっと卓越した存在だと思いますが…でも、そう感じます。

松田凌撮影=友野雄


■取材・文/WEBザテレビジョン編集部
撮影/友野雄