「絶望」と向き合った果てに、ReoNaがたどりついた場所。『HUMAN』インタビュー

2023/03/06 16:00 配信

音楽 アニメ インタビュー

ReoNa撮影:北島明


1曲として「この曲は、まあしょうがないか」と思って作ってきた楽曲がない


――歌う側も聴く側も、曲に対して投影できる思いを受け入れる器には大きさがあって、それが大きくなると、必然的に一対一がより濃くなっていくんでしょうね。

ReoNa:その人がどれだけ自分と重ねてもらえるか。その余白というか、思いを重ねられる余地の部分が、ますます広がっていけばいいな、と思います。くしくも、今回は作家さんやミュージシャンさんも今までで一番幅広くお願いしていて。タイトル曲の“HUMAN”で初めて島田昌典さんに編曲をお願いして、いろんな人たちに関わってもらって、触ってもらったものになっていて。デビュー前から、「ReoNaはわたしだけど、ReoNaReoNaだけのものじゃない」ってずっと思ってきました。ReoNaに夢を託してくれてる人、音を託してくれてる人たちがいて、一緒に音楽を作ってくれる人たちが、みんなでReoNaを一緒に作ってくれている感覚があります。

そこに触れてくれる人たちが増えることで、ReoNaっていう存在の幅もすごく広がると思います。いろんな人の手に触れて、いろんな人の想いも入ることで、わたしが見えてない違った想いが誰かを救ってくれてかもしれないし、わたしが見えている方向だけではないところにもささるもの、届くものができているのかなって思います。

――2018年にデビューしたときと一番大きく違うのは、ReoNaのもとに集まる、あるいは発揮される力の大きさであり、味方になってくれる存在の数であり、というところだと思います。お歌を一緒に届ける存在の数、熱量が全然違っているんですよね。もちろん本人も進化していくけれども、ひとりで作っていく感じではないからこそ、『HUMAN』の制作ではかつてなく心強さや頼もしさを感じたんじゃないですか。

ReoNa:そうですね。ReoNaの音楽を理解してくれて、一緒に紡いでくれてる人たちの数は、圧倒的にこの5年間で変わりましたし、その中で歩んできた道筋もあるので、「前はこういうものを一緒にできたよね」「今回はこういうものを一緒に作ろう」っていう、今まで踏んできた轍があるからこそ踏み込める一歩があったと思います。

――でもそれは、たまたまそうなったのではなく、絶望系アニソンシンガー・ReoNaが発信している・伝えようとしてることがわかりやすくて、共感を呼ぶからじゃないですかね。だから、いろんな人たちが自分を重ねることができるし、伝わっていく。「ReoNaの芯」を、作る側も聴く側も理解できた上での音楽になっている、というか。

ReoNa:「絶望系アニソンシンガー」っていう言葉が芯にありつつ、その周囲に「絶望系ってどういうことなの?」とか、わたし自身がつらかったときに欲しかった共感や寄り添い、「これ以上頑張れない」って思ったときに「頑張れ」って言われたくない想いがあって。背中も押さない、手も引かない――わたし自身が伝えたいものに呼応してくださった方々がいて、今までリリースさせていただいて、誰かに届いてきた楽曲たちのパワーも絶対あるな、と思います。

どういう言葉にしたらいいのかわからないですけど、もう全部が推し曲なんです。今までアニソンとしてリリースさせてもらったものも、そのカップリングとして出させてもらったものも、1曲1曲に並々ならぬ想いを注いできて。1曲として「この曲は、まあしょうがないか」と思って作ってきた楽曲がないからこそ、ミュージシャンさんやクリエイターさんも想いを託してくださるところはあるのかなって思います。

――全曲、推し曲。

ReoNa:全曲推し曲です。

――確かに、“ANIMA”や“シャル・ウィ・ダンス?”はライブでの熱量や爆発力が印象的ではあるけど、ReoNa楽曲を受け取る人の琴線に刺さる楽曲は幅広いんだろうな、と感じますね。それだけ普遍的な感情をあらゆる曲で描けている、お歌に乗せられてる、ということでもあると思うんですけど。

ReoNa:今までのReoNaのどの楽曲を好きだった人も、今回の『HUMAN』の中に心に引っ掛かってくれる楽曲があるんじゃないかなって思うくらい、色とりどりな楽曲たちになりました。

――「好き」が更新されていくのは聴く側からしても嬉しいことだし、そういう体験をもたらせているのは、お歌を歌う人としては冥利に尽きることじゃないですか。

ReoNa:本当に、冥利に尽きることです。わたしも、好きなアーティストさんの新曲がいい曲だったら、もちろん嬉しいですし。今までのものが悪かったという感覚ではなく、自信を持って「いい曲ができました」ってお届けできるのは、すごく幸せなことだと思います。


取材・文=清水大輔 
写真=北島明(SPUTNIK)
ヘアメイク=Mizuho



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