『アカイリンゴ』Pが語るテーマ「ベッドシーンを真面目に美しく描く」テレビの曖昧なタブーに挑戦する番組作り

主演・小宮璃央のキャスティング理由は「悪に転換する演技を見てみたい」

第1話では優等生の主人公・犬田光(小宮璃央)(C)ABCテレビ


――キャスト陣のキャスティング理由や、撮影中の様子についてお聞かせください。

まず小宮璃央くんは、演じる犬田光が序盤は純粋無垢で、後半ひっくり返るという、正義から悪への振れ幅が激しい役です。元々戦隊ものをやられていたこともあり、悪に転換する演技を見てみたいと思ってお願いしました。すごく振り切っていて、「小宮璃央」を一回置いて「犬田光」として現場に来てくれた印象がありました。たとえば2話で牛本(大久保桜子)に誘惑されるシーンの演技は、小宮くんが自分で考えているんです。彼が先頭で弾けてくれたので、みんなついていけたんじゃないかなと思います。

川津明日香さん演じる水瀬優は、原作者のムラタコウジ先生の言葉を借りるといわゆる「負けヒロイン」であんまり報われない。それに言葉遣いが男っぽくて、サバサバしたカラッと明るいキャラ。これってご本人の根がそうじゃないと難しい役だと思い、マネージャーさんに以前から人となりを聞いていた川津さんにオファーしました。ハマり役だと思います。水瀬って、この作品で唯一真面目な人なんですよね。後半それに気づいてきて、楽しんでやってくれていたと思います。

“ウチュラ”こと宇宙美空は、国民的美少女かつ謎が多いキャラなので、ミステリアスで不思議な印象があった新條由芽さんにお願いしました。水瀬との対比で、元気すぎずやや陰のあるイメージにしたかった。ちなみにムラタ先生からは、ビジュアルは原作に寄せなくていいので、キャストが一番魅力的に見える状態にしてと言われていたんですが、新條さんご本人から「やるからには(原作と同様に)髪を切って金髪にしたい」と言ってくださったんです。熱さを感じました。

壇田先生は、最もキャスティング不可能だと思っていた役です。でも過激なシーンの表現をマイルドにしたり省いて逃げたくなかったので、そのまま演じてくれる方を探し求めていました。森咲智美さんご自身もオファーに「これマジでやるの?」と思ったそうなんですが、「これをできるのは私しかいない」と受けてくださったそうです。撮影では女性が美しく見える身体の所作を実践いただいて、西山さんも感嘆されていました。

傷を負いながらも盛り上がる番組を作っていきたい


――「性行為が違法な世界」という設定自体、性的な話題や性教育が忌避される日本ならではの設定なのではないかと感じました。矢内さんはテレビの作り手として、規制の多い今の日本の地上波に一石を投じたいという意志もあるのでしょうか?

地上波って総務省の管轄なので、「公序良俗に反さない、善良な番組」を作ることが放送法で定められています。最近では未成年がお酒を飲む、タバコを吸う、道端で歩きスマホをする、なんかはもちろんダメですよね。公道で車を運転するときには、たとえどんな荒くれ者であってもシートベルトを締めます(笑)。クリエイティブという意味では、それでいいんだっけ?と思うときもやっぱりあるんですよね。

もちろん、テレビのルールに反抗したいわけではないんです。特にこの作品は本当に大変でした。考査や編成を担当する部署の人と、こんなにやりとりしたことはないなってくらい。腑に落ちないこともいっぱいあったんですけど、でもやっぱり楽しいんですよね。今作だと「エロすぎる」というところに焦点が当たっていますが、別作品でも「エロ」以外の部分も含めて「そこまでやるの?」って社内から言われながら番組作りができたら、しんどいけど良いなあと思っています。

ちなみに3話では、地上波で流せないシーンが出てしまったんです。それで現場もテンションが下がっていたんですが、(全話配信中の)DMM TVだったら編集せずに流せるということがわかり、配信に組み込むことができて救われました。そういう風に、傷を負いながらも盛り上がる番組を作っていけたらと思います。何も反応がなくスン…として終わるのが、作り手としては一番つらいことなので。

――放送もクライマックスですが、最後に今後の見どころを教えてください。

5話の途中くらいからは、原作漫画と違うオリジナルストーリーに突入しています。ちょっとバカバカしい展開やセリフもありつつ、脚本は非常にまじめに作っていますので、特に犬田・水瀬・ウチュラの3人がどうしてこういう思考の人間になっているのか、三角関係の結末をしっかり描いています。「ちょっとエッチなコメディ」と思って視聴していた人が、最終話で「ヒューマンドラマだったのか!」と気づいて、涙を流していただけるような後味を紡ぎ出すことができたらいいなと思っています。

『アカイリンゴ』8話より(C)ABCテレビ


■取材・文/WEBザテレビジョン編集部