以前の私は夜遅くまで部活をしながら、課題も忘れた事はなかったな。
国語は苦手だった。でも授業では教わっていない教科書の先のページにある文学作品を、家で先に読むのが好きだった。
『盆土産』、あれは名作だ。
年に数回の家族団欒の時間が、まるで自分の体験のように瞼の裏に鮮やかに浮かぶ、この作品が好きだ。
私も以前は家族全員で食卓のテーブルを囲み、夕飯を食べながら家族水入らず団欒のひとときを過ごしていた。今はそういうことも無くなったけれど。
と物思いに耽っていると、えぇいこんなもの、と急に心の中がぐちゃぐちゃになってしまった。
もうこんな課題用紙はどうだっていいのだ。
気がつけば、食べる事も寝る事も忘れ、何時間も裏紙にありとあらゆる物を描きなぐっていた。
裏紙が真っ黒になるくらい、塗り潰すみたいに描いてやれ。裏紙のオモテが透けなくなるくらい沢山の絵で塗りつぶして、描いて描いて全てを忘れ去ろう。
好きな物も嫌いな物もありのままに、今の私自身の全てを紙にうつし出す。私の世界は黒だけだと思ったから、使う物は黒ペン一本だけ。兎に角イライライライラ腹を立てながらやり場の無い気持ちを描く。
誰にも理解されないと感じていた当時の私の未熟な心の中をプリント用紙の裏に精一杯表現した。
若さ故のエネルギーを狭く暗い自室で持て余していた私が、唯一出来た事。
当時描いた絵は今も自分の学習机に大切にしまってある。
中学の卒業アルバムは殆ど見ずに捨てた。
あんな見せかけだけの硬い紙には思い出も気持ちも何も詰まっちゃいない。
私にとっては裏紙に描き殴られた真っ黒で変てこな絵だけが、中学時代を必死に生き抜いた唯一の証である。
スタイリング:菅晴子
ヘア&メイク:福島加奈子(ごほうび)
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