「別れ」は寂しいけれど、終わりじゃない。『ほどなく、お別れです』/佐藤日向の#砂糖図書館

2023/03/25 20:00 配信

アニメ 連載

佐藤日向※提供写真

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。
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いくつになっても、別れというものには慣れない。
一生の別れでないとしても、切なくなるものだ。

今回紹介するのは長月天音さんの『ほどなく、お別れです』という作品。本作は、葬儀場でアルバイトをしている大学生の主人公が、職場でたくさんの別れを見届けるハートフルな作品になっている。

主人公の彼女は霊感が強く、ときおり"彼ら"を見たり、感じたりすることがある。亡くなった方本人の想いや、心残りだったことなどを、主人公の視点を通して遺族に届ける、切なくもあり、優しい物語だった。

私は年齢をそこまで重ねていないこともあり、記憶がちゃんとある中でも葬儀に参加した経験は一度だけだ。その時の光景はきっと、忘れないと思う。

私にお芝居のいろはを教えてくださり、お芝居について深く考える手助けをしてくださった恩師。お芝居の先生の葬儀が執り行われると連絡が来たのは突然だった。

葬儀の連絡というのはいつだって突然だとは思うが、その時の実感の湧かなさや「心の準備なんて出来ないんだな」と思ったことを強く覚えている。

先生の葬儀では、当時疎遠になってしまっていた役者友達がたくさん集まっていて、少し同窓会のような雰囲気になっていた。みんなと会うのも久しぶりで、色々な話をする中、先生とみんなと過ごした日々は消えてなくならないし、葬儀場には先生が常に持っていた雰囲気のようなものが室内にずっと漂っていて、ただただ懐かしかった。

『ほどなく、お別れです』の作中で主人公が感じる霊感とは違うかもしれないが、目の情報だけではない、五感で感じる先生の空気感みたいなものが、あの場には確実にあったと思う。湿っぽいのが好きじゃない、小学生から高校生になるまで育ててくれた、ずっと綺麗な魔法使いみたいな先生。厳しいことを子どもに伝えるのは勇気がいるし、嫌な役回りのはずなのに、頑固な私に伝え続けてくれた。そんな大切な思い出の中の独特な空気感みたいなものはずっと、ずっと残り続ける。そして先生が私に残してくれた"丁寧に演じる心"や役に対しての考え方も、私の中で一生消えずに強く残り続ける。

「別れ」と聞くと寂しい気持ちが先行してしまいがちだが、本作のようなやり取りが葬儀場で行われていると、生前のような自分を見てもらいたい、そう思える。

作者の長月さんご自身の経験から生まれた物語と帯に書かれていたのをきっかけに手に取った作品だが、長月さんのこれまでの経験と、旦那さんとの思い出が本作の優しくて温かい空気を文章の中に詰め込まれているのだろうと私は思った。

誰かと接することに臆病になっている、そんな時には是非本作のページをめくってほしい。
読了後にはきっと新たな気持ちに生まれ変われているはず。

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