上京してオーディションへ。訪れたターニングポイント――前田佳織里「未完成STARへの道」

2023/03/25 18:00 配信

音楽 アニメ インタビュー

前田佳織里撮影:北島明

『ウマ娘 プリティーダービー』『アイカツスターズ!』『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』などの人気作品へ次々に出演し、芝居にステージに、幅広く活躍を繰り広げる声優・前田佳織里が、待望の自身名義での音楽活動をスタートする。3月15日にリリースされた1st EPのタイトルは、『未完成STAR』。初のアニメタイアップ担当楽曲を含む全4曲は、いずれも「表現者・前田佳織里」のパーソナリティを映し出した佳曲たちだ。音楽活動、そして『未完成STAR』にたどり着くまで、前田佳織里はどのように歩みを進めてきたのか――声優や音楽を志すことになったルーツから青春時代、そして現在に至るまでを語り尽くした超ロング・インタビュー、第6回は、福岡から上京して臨んだオーディションのエピソードと、キャリア初期に出会った作品について語ってもらった。

デッカいクマさんのワンピースを着て、オーディションに行ったんです


――オーディションの話を聞かせてください。前田さんは『2016声優アーティスト育成プログラム・セレクション』でグランプリを獲得していて、現在所属しているアミューズが参画しているオーディションだったんですよね。「絶対声優になる」って心に決めていたわけで、相当な覚悟を持って臨んだのではないか、と思うんですけども。

前田:正直、そのオーディションを受けたときは力試し、記念受験くらいの感覚でした。絶対声優になるとは思ったけど、やっぱり倍率もハンパじゃないし。だって、3000人の中でひとり、とかだったんですよ。

――相当、狭き門ではありますね。

前田:規模で言うと、それくらいでした。高校を卒業して、いろいろ人生設計を考えましたけど、福岡なので、まず上京資金がないと始まらないっていう。夢はあるが、それを叶えるための現実問題もいろいろありました(笑)。高校を卒業して1年間、福岡でひたすらバイトをして、上京資金を貯めたんです。それから上京をして、東京に来て2016年の『アーティスト育成プログラム』のオーディションの話を、当時バイトしていたミスタードーナツの先輩が教えてくれて。

――ミスドでバイトしていた。

前田:そうなんです。ずっと、ミスタードーナツが大好きすぎてバイトをしてたんだけど、たしかその先輩も、実は当時声優の養成所に行ってる人、だったのかな? そういう方がたまたまいて。「前田ちゃん、こういうオーディションあるよ」って教えてくれたのが、わたしが受けたオーディションでした。それで、「そうなんだあ。ちょっと悩むけど、やってみよう」って出したのが、締め切り1週間前とかのタイミングで、急ピッチで写真を撮って、滑り込みで出しました。

――どんな経緯があったんですか。

前田:本来なら声優の養成所にも行こうと思ってたんですけど、いろいろと方向性を見定める前に、オーディションの話を聞いて、受けてみたところ素敵なご縁でグランプリをいただきまして。当時、3次審査まであって、内容は歌とセリフ、自己PR、あとは質疑応答でした。わたしは1次の段階からアミューズにしか受かってなかったんです!

――参加していたアミューズ以外のマネージメントは、1次の時点から前田さんを獲得する意思表示をしてなかった、ということ?

前田:そうだと思います。2次審査のときに、デッカいクマさんのワンピースを着て、オーディションに行ったんです。もう、クマさん自身がワンピースを着たような――当時から、ファッションは奇抜なものが好きだったというか。クマさんがすごく好きなので、着ると落ち着くんです(笑)。

で、そのクマさんを着ていって、自己PRでは自分の中で何か目立つことってなんだろうと考えたときに方言かな、と思ったので、博多弁で自己PRをしました。当時のわたしを見て、今のマネージャーさんが、「なんかヤバいヤツがいる」って思ったらしいです(笑)。「すごくヤバいけど、なんか気になるな」って気になったらしくて(笑)。

――(笑)クマさんの服は別に奇をてらったわけじゃなくて、着ると安心するから着ていったんですか。

前田:それもあるし、自分の中で勝負服だったんですね。

当時も今もわたしの中で大きなことは、歌で学んだことはお芝居にも活かせるし、お芝居で学んだことは歌にも活かせる、ということ


――バンド時代にバンド名を袋に書いたアメを配ったように、記憶に残りたいっていう意図もあったんですかね。

前田:どっちかというとそれは博多弁のほうで、クマさんは着たいから着ました(笑)。ポケットがあって、左ポケットにレフト、右ポケットにライトって書いてあるんですよ。それがすごくいいな、と思って(笑)。自分の中での勝負服、一番好きな服を着て、オーディションを受けて。まあ、事務所に入ってから「二度とその服着ちゃだめだよ」って言われましたが(笑)。実はわたし、3次審査で田所あずささんの曲を歌ったんですよ。田所さんの歌、昔からすごく好きで。『アイカツスターズ!』でご一緒したときにあずささんにそれを伝えたら、とても喜んでくれました。なので、思い出深いです。

会場では、緊張したというか、ライバルとバチバチって感じでした。初めてリアルで自分と同じ夢を持つライバルたちの姿を見たので。全国にいっぱいいるんだろうな、とは思ってたけど、現実にいるのを見て――やっぱり、人生で初めて受けたオーディションなので。いろんな人たちがいて、見せ方が上手いなって思う人もいれば、「えっ? こんな服を着てくるの?」っていう人も――まあ、「お前が言うな」っていう特大ブーメランなんですけど(笑)。「うわあ、この子、歌上手いなあ」とか「声かわいい~」みたいな、いろんな人がいて、その中で「自分は自分だあ!」って思いながら、頑張りました。

――声優になることが一番の夢だった一方で、歌についてはどういう活動をするイメージをしてたんですか。

前田:漠然と、マルチな活動をしたいとはずっと言ってました。それを、自己PRにも入れた気がします。アミューズって、表現という意味ですごく幅の広い事務所じゃないですか。いろんなことも学べるし、挑戦させてもらえるから、声優として活動する事務所としては新しいなって当時の自分は思っていたので、「この事務所に入りたい」と思ってました。だから、合格の通知をいただいたときは、ほんとに嬉しかったですね。

――お芝居や歌もそうだし、舞台の仕事もありそうですね。

前田:はい。当時も今もわたしの中で大きなことは、歌で学んだことはお芝居にも活かせるし、お芝居で学んだことは歌にも活かせる、ということです。それぞれ独立して見られがちだけど、わたしはどこにでもヒントがあると思っていて。自分で自分の限界を決めたくなかったのも、大きいと思います。

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