長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は新感覚クイズバラエティー「GPSつけてみた」(フジテレビ系)をチョイス。
あるモノにGPSを取り付けて、各地を移動する軌跡からソレが何なのか当てる。ズバリ『GPSつけてみた』としか言いようのない番組、あまりに面白い企画で、たまらず見入ってしまった。40分程度の尺で5問の出題がなされ、退屈する暇もない。人でも物質でも、とにかく魅力的なモノというのは、移動経路においても魅力的なのだ。
一応はクイズ番組なので、詳しい内容は本編に譲るが、何よりも言いたいのは、この番組、これまで私が個人的に気に入ってきた番組たちと同様、”持っている”のである。
番組の中で、スタッフがあるものを撮影するためにサウナに訪れる場面がある。我々の見ている画面には当然、その被写体が映し出されているのだが、ふいにカメラが左方向にパンしたと思ったら、丸坊主の男性が同じ空間にいたことが分かる。彼は偶然に居合わせた一般客で、たまたま京都から仕事で来ていると人当たりの良い喋り口で語る。坊主で京都という事から、スタッフは冗談交じりで「お坊さんとかじゃないですよね」と聞くと、「あ、お坊さんです」と返ってきて、さらにカメラが引くと彼の下半身が写り、座禅を組んでいたことが分かる。そして、ある事情でスタッフがその男性に代わりに撮影をしてくれないかと頼むのだが、彼は「フォトグラファーもやってるので」と快諾し、カメラを引き受けてくれる。
このくだり、番組の趣旨とはまったく関係のない、ただの出来事に過ぎないのだが、偶然に居合わせた一般客の素性が小さな驚きとともに少しずつ判明していく一連、そして、テレビマンが一般客にカメラを任せてしまうという十分オチになりえる局面すら、住職でありフォトグラファーでもあるという驚きをもってして跳ね返してしまう彼の豊かさ、ここのところ見た番組でも随一の興奮である。言葉だけでなく、カメラが驚きの演出に多大な貢献をしているのが素晴らしい。特別笑えるとか、衝撃とか、そういった出来事ではないのだが、この番組は”持っている”、そう断言してしまいたくなる一幕である。
また、企画の特性上、パリ、コロンビア、タイ…と、日本だけでなく、世界の国々の風景を見られるのが嬉しい。特にパリ、私はパリを恋の街だと思っているのだが、レピュブリック広場が映ったとき、抱擁し合う2人組が画面の奥に写っていて、(2人が恋愛関係であるかは分からないが)うわ~パリで恋愛して~とはがゆい気分になった。
さて、面白い番組で大変満足したのだが、ふと自分にGPSがつけられたらどんな軌跡が記録されるのだろうと考えてしまった。自宅に48時間滞在、セブンイレブンに5分滞在、また自宅に48時間滞在。クイズにもなりゃしない……。東京だって恋の街であるはずなのだ。今すぐ外に出て、旅をして、恋をしなければならない、自分の移動経路、誇れますかって言ってんの!
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