どこを切り取ってもアート…落書きだらけのトイレ、口元アップの写真 映像美に魅了される<ライ・レーン>

2023/04/11 11:45 配信

映画 レビュー

アートが溢れている理由

トイレを出て広がっているのは、口をテーマにした写真展。ピンクの壁にでかでかと飾られている口元に迫った写真はインパクト大で、この作品の大胆で媚びない姿勢が感じられる。アートギャラリーで幕開けをする必要があるように感じていたとNewYork Timesのインタビューで話したのは脚本を担当したネイサン・ブライオンとトム・メリア。「映画やTVでヤズとドムのような黒人の人たちが芸術の世界にいる姿はほとんど見られない」と話し、新たなスタンダードを意識したことを明かしていた。

ギャラリーを飛び出してからも美的感覚が刺激される描写が満載。ペッカムとブリクストンといった監督の地元である南ロンドンのエリアを横断するドムとヤズの散歩は、まるで自分の足で町を歩いているように、ローカルな雰囲気を堪能できる。

人懐っこいおじちゃんが営むカラフルな八百屋さんが並ぶ通りを見るだけでも、色とりどりの看板が目に留まり、ステッカーだらけの電柱や壁に描かれたストリートアートなど、雑然としているのに絵になるかっこよさ。時に広角レンズを使うなどユニークなカメラワークもみどころで、観る者の目を引きつけて離さない工夫が詰まっている。


白と黒は使用禁止 カラフルな世界観の秘密


映画そのものがモダンアートといっても過言ではない本作。ロケーションもさることながら、ファッションにもこだわりが詰まっているようだ。「色が大好きで、たまたまアートディレクションされたような気がするものが大好き」と話すミラー監督。

「みんな知っている私の絶対的なルールがあるの。NOブラック、NOホワイト。色だけほしいの(笑)、白い壁が本当に好きじゃないのよね。今回は予算がすごいあったわけじゃなかったからすべてを塗ることはできなかったけど、次の映画ではより多くの予算で、すべての壁を塗ることができるといいなと思う」とVogueのインタビューで話していた。

その言葉通り、思いつかないようなカラーコンビネーションで目を引くファッションやインテリアなどが全編に散りばめられていて、見れば自分のお気に入りシーンができるはず。ひとつひとつ柄が違うクッションがいくつも並ぶ目がチカチカするようなベッドがドーンと置かれているヤズの部屋や、ヤズの親戚の家でドムが開けることになる大切なものが雑然と入れられたタンスなど、ごちゃごちゃしているのにどこかまとまっていておしゃれなシーンが盛りだくさんで飽きない。

これまで見ることのなかった新たなロンドンの魅力炸裂の映画「ライ・レーン」。ロマコメとして楽しめるのはもちろん、時にアート集を見るように、時に旅行気分で、さらにはファッションやインテリアの参考がてら見ることもできる。見れば見るほど新たなみどころを発見できる「ライ・レーン」は、様々な楽しみ方ができる作品だ。


◆文=KanaKo