人生をどう歩むか立ち止まって考えたくなる『黄色い家』/佐藤日向の#砂糖図書館

2023/04/15 20:00 配信

アニメ 連載

佐藤日向※提供写真

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像作品や舞台俳優としても幅広く活躍する佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本から受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。

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勉強というのは自分のやる気次第で伸ばし続けることができるゴールのない目標だと思う。だが、自分の人生の重きを何に置くかによって取り組むものも変わってくるだろうし、勉強が全てを解決してくれるわけではない。学んだものを自分の武器に出来るかどうかが重要になってくる。

今回紹介するのは川上未映子さんの「黄色い家」だ。本作は十七歳という10代の中でも色濃く思い出に残る年齢の子どもが親もとを自分の意思で離れ、黄美子というスナック経営をする女性が住む「黄色い家」に集う。そして少女たちは生きるため詐欺へ手を染めはじめる。誰か一人がバランスを崩せば全壊してしまうような脆い共同生活は、黄美子の知り合いの女性が亡くなったことでドミノのように崩れていく。少女たちの生き様がリアルに描かれているクライムサスペンス作品だ。

黄美子の家に集う少女たちは全員高校での学生生活を諦め、夜の世界に飛び込んでいた。人は生活をするためにはお金を稼がなければならない。親が守ってくれなければ子どもは自分で自分の生活を守るしか生きていく術がないのだ。勉強をさせてもらえる環境は特別で当たり前でない。どんな場面でもお金が必要で、10代の子供だけで生きていくことの辛さがリアルに描かれており読み進めていくたびに苦しくなった。

コロナ禍の現在から過去を遡りながら読み進めていくうちに育った環境からやっと逃げたと思えたのに新たに見つけた居場所すら安全な場所ではなく、年齢を重ねていくごとに落ちて落ちていく。どんな場面でも学歴というのは求められ、その学歴を努力を続けることが出来る証のようなものになるのが現実だ。しかし、勉強を安心してできるのはその環境を親が守ってくれるから成立する。

私が大学までやりたい勉強を続けさせれてもらえたのは両親が私をずっと守ってくれていたからだ。「黄色」というタイトルの明るさとは反対の紺色のような明るくなりそうでならない絶妙な暗さが終始あり、読みやすい文章ではあるものの読み進めるのが苦しくなる作品だった。これからの人生をどうやって歩むか一度立ち止まって考えたくなる本作は、読み手によって感じ方が変わるだろう。

苦しくなるか、共感するか、読みながら自分の感性に語りかけてみてほしい。

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