YouTubeやInstagramなどを活用した広報戦略にも積極的だ。
例えば、“夜ドラ”のほとんどの作品は、1週間の内容を2分にギュッと凝縮した“2分まとめ”をYouTubeで公開している。これは、“朝ドラ”で評判の良かった施策を取り入れたものだ。土屋氏は「15分見るのもしんどい人に、まずは2分でもいいので見てほしい、という思いで投稿しています」と話す。
また、各ドラマごとに独自動画も投稿。人気YouTuberでタレントの丸山礼を主人公・網浜奈美役に起用した、自称“サバサバ女子”のコメディ「ワタシってサバサバしてるから」(2023年)では、オリジナルソング「サバサバサンバ」に合わせてキャストが踊るダンス映像や網浜のモーニングルーティンなどをYouTubeにて公開し、話題を呼んだ(※現在は非公開)。
さらに、Instagramにもオフショットを多数掲載するほか、作中に登場するメニューのレシピを紹介したり、作中に登場する小道具などの裏話を明かしたりと、視聴者を喜ばせる仕掛けを散りばめている。
「SNS展開では、新しい視聴者を獲得するというよりは、“ファンの方に、より濃厚なファンになっていただく”ということが重要だと思っています。その意味では、“夜ドラ”のInstagramは1つのアカウントを継続して使っていますが、番組が切り替わってもアンフォローが少ないんです。主演の方のファンの人が番組終了後一気にアンフォローしたり、次の作品の出演者のファンが一気にフォローしたり…みたいなことではなく、“夜ドラ”の固定ファンにしっかりと楽しんでいただける空間になってきたかなと。ファンサービスの場としての手応えはあります」(渡邊氏)
2022年度はどのような作品が視聴者に刺さるのかを探るべく、青春ミステリーからコメディまで幅広いジャンルの作品を、試行錯誤しながら届けていった。時には、視聴者から予想と異なる反応が返って来ることもあったという。
そのうちの1つが、シングルマザー・亜子(仁村紗和)がコロナ禍で配達員に転身し、強く生きていく姿を描いた、NHK大阪局制作のヒューマンドラマ「あなたのブツが、ここに」(2022年)だった。「卒業タイムリミット」(2022年)が放送されていた頃、同作の準備段階の台本を目にした渡邊氏は、これでは辛い社会をそのまま描きすぎているのではないか、と感じ「配達場所でいろんな事件に巻き込まれるドタバタのエンターテイメントのようなものの方が楽しいんじゃないか」と提案。しかし、同作はそのまま1人の女性がたくましく生きていく姿をていねいに描く形をとり、それが視聴者に広く受け入れられた。
「そうか、わかりやすいエンタメだけが人を元気づけるのではないのかと、大いに反省いたしました」(渡邊氏)