多様な作品を届けている“夜ドラ”枠だが、一連の作品の根底には共通の思いが。
「“夜ドラ”は夜のリラックスした時間帯に見て、明日も頑張ろうと思えるようなドラマにしたいと思っています。なので、『自分らしく生きよう』と思えるような、元気をくれるような企画を探しています」(土屋氏)
「私が作った作品では、『そのままの生き方でもいいですよ』ということは大事なテイストにしたいと思っています。皆さん、日中は頑張らなきゃいけないとか、大きな決意をしなければいけないといったプレッシャーを社会で受けていると思うんです。だからこそ、“今日もなんとか夜を迎えられたから、それでいいじゃないか”みたいな肯定感は大事にしています」(渡邊氏)
この“自分らしい、そのままの生き方”を肯定したい、という思いは、例えば高校を舞台にした青春ミステリ「卒業タイムリミット」(2022年)に反映されている。同作のメインキャラクターの一人である高畑あやね(桜田ひより)は女子生徒ながらパンツルックの制服を着ているが、特にそれがエピソードに関わってくることも、説明が入ることもない。それは、「パンツルックの制服がいいと思う人をなんの説明もなく受け入れる社会であってほしい」という願いからだという。
また、「超人間要塞ヒロシ戦記」(2023年)でも、各キャラクターに“自然体でいる生き方を肯定する”役割を少しずつ担わせるようにした。
「最終的には少し一歩踏み出す、背中を押すみたいなメッセージを伝えつつ、それが重荷になりそうな方々を置いていかないように気をつけながら作っています」(渡邊氏)
そんな“夜ドラ”だが、特にターゲット層に刺さったのは「作りたい女と食べたい女」と「ワタシってサバサバしてるから」の2作品だという。松田氏は、その理由を「“夜ドラ”が“よるドラ”だった時代から感じていたことですが、キャストやテーマ、演出方法といった点に置いて“今を切り取っている作品”がよく見ていただけている傾向にあると思っています」と分析する。
「『ワタシってサバサバしてるから』に関しては、主人公の網浜奈美(丸山礼)が強烈なキャラなので、拒否反応を示す方ももちろんいらっしゃるだろうな、と実はみんなドキドキしていました。それでも、ちょっと息苦しくなってしまうような毎日を過ごしている中で、強烈な自己肯定感が爆発しているキャラを描いた作品によって、気持ちをすっとさせることができるのではないかと思って採択し、制作統括ともていねいにやりとりをしながらチューニングしていった作品でした」(松田氏)
最後に、「夜ドラ」の今後の展望を語ってもらった。
「もっと視聴者数を増やしていきたいですね。あと、これまでは1シリーズの期間が6週程度だったのですが、実は2023年度からは8週程度に伸ばす予定なんです。自分の時間をじっくり、ゆっくり楽しんでいただけることを願っています」(土屋氏)
「経営戦略上はもちろん視聴率やNHKプラスでの再生回数、SNSから視聴者を巻き込んでいく力などが大きな課題ではあると思うのですが、現場がそれに囚われてしまうと、似たような“狙ったドラマ”ばかりが出来てしまいかねないと思うんです。レストランで「この料理をください」というお客様に対して、注文通りの料理を出しても感動されない。それよりも、『これを食べたかった』と気づかせるような新しいものが出せるといいなと。『夜ドラ』は、『NHKの夜にはちょっと違うものがある』と思ってもらえるような、少し変わったセレクトショップのような枠にして行きたいと思っています。例え1つの作品の視聴率が低かったとしても枠総体としてカバーしていけるので、それよりも1つ1つの作品が挑戦的であることの方が重要だと思っています」(渡邊氏)
「もちろん数字として示していく必要もあるのですが、それ以外のところもしっかり拾っていきたいなと。根底には『明日も頑張るか』という気持ちになってもらえるドラマを提供したい、という想いがありますので、『この人に確かに届いたんだな』という反響が一つ二つでもあればうれしいです。そんな作品を積み重ねてブランド化していき、もっと多くの方に見てもらえるようになって、最終的には“朝ドラ”“夜ドラ”と両輪で語ってもらえるところまで持っていけたらいいですね」(松田氏)