コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、SNSなどで若い女性を中心に支持を集める漫画家・黄身子さんがTwitterに投稿した作品『ブルーム』をピックアップ。2023年3月24日に同作を添えて投稿されたツイートには、8500を超えるいいね(4月7日現在)と多くの共感のリプライが寄せられ話題となった。この記事では、作者の黄身子さんにインタビューを行い、創作のこだわりや3月25日に発売された新刊『ジルコニアのわたし』などについて語ってもらった。
黄身子さんは、2016年から恋愛や人間関係のわかりあえなさをテーマにTwitterで漫画の投稿を続け、若い女性を中心に支持を集めている。
『ブルーム』は、女子生徒が窓の外で散る桜を眺めながら「あの人を好きになっていろいろあったな」「ふたりで話したこともあんまりなかったな」と恋愛を振り返る内容。作品を投稿したツイートには、「すごい刺さる」「美しい」「すごいわかる」と、情景の美しさや心情描写を賞賛するコメントが集まった。
黄身子さんは2023年3月25日に、昨今社会的にも関心を集める“アイドルの恋愛”をテーマにした『ジルコニアのわたし』を発売。女性アイドルグループに所属する4人の女の子たちがスキャンダルをきっかけに、自分の気持ちと向き合い、不器用ながらも成長していくストーリーで、「アイドルにとって恋愛は悪なのか」という問題に向き合った作品だ。
ーー『ブルーム』は普段の黄身子さんの漫画ではあまりない学校が舞台となった作品ですが、この作品を描かれたきっかけはありますか?
SNSに漫画を投稿するとどうしてもリアルタイムなものとして受け取られるので、イベントごとなどで恋愛の話題が盛り上がる時には、そのきらきらしたムードにのりきれない人に寄り添えるようなものを描きたいと心がけていることが多いです。そこでちょうど卒業シーズンということで考えたのですが、いままで自分と同世代の社会人女性に向けたお仕事が多かったし、制服だといかにも青春もの的に見えるので、自分には求められていないかな、と思っていました。ただ最近、いろんな気持ちを許容してくれる物語に10代の時に出会いたかったなと考えていたり、『ジルコニアのわたし』で学校が舞台の話を描いた経験もあって、今までと違うチャレンジとして学生の子を描いてみても良いかなと思いました。
ーーこの漫画を描く上で特にこだわったポイントを教えてください。
「何もできなかった恋愛」を描きながら、それが悪いことではなく自分の気持ちの中では前に進んでいる、という感じを出したいと思って、眺める→歩いていくという動きをつけました。絵の面ではいつもファンタジックなかわいさと少しのリアルさを共存させたいと思っているので、今回は学生っぽく普段あまり描かない黒髪にしてみました。
ーー本作は4コマのみで完結する短編で余韻を残す終わり方になっています。普段Twitterに投稿する4コマ漫画を考える際に心がけていることはありますか?
前後の文脈がないぶん、同じ気持ちを描くにも絵の印象や言い回しに気をつかいます。時には自分の意図と全く違うマイナスな受け取られ方をしてしまうこともあるので難しいですが、他の読み方を考えながら何度も見返して、余白とのバランスを調整するようにしています。
あとこういう形の作品では、見ていて幸せになるようなかわいさがないと、どんなにいい内容でも抉られてつらいだけになってしまうと思うので、過剰なくらいラブリーなモチーフを入れようと思っています。うまくかけないことを気にすると発表したくなくなるけど、うまくなくてもかわいくしようという気持ちでやってます。
ーー3月25日には、“アイドルの恋愛”をテーマにした新刊『ジルコニアのわたし』が発売されました。どんな作品に仕上がりましたか?
恋愛という概念は一面的ではなくて、見た目と実際の関係が乖離していたり、自分の状況によって幸せだったり劇薬だったり不穏だったり、印象が変わってしまうものだと思います。その複雑さを描きたいと思って考えたお話でした。大きすぎるテーマで手に負いきれなかったところもあると思いますが、物語全体の構造としてもそれを表現できるようにしたいと考えたので、ぜひ描き下ろしの最終話まで読んでいただけたら嬉しいです!
あとはいろんな恋愛観や、女の子たちがわちゃわちゃしているのを描けたのが楽しかったです。装丁も想像以上にかわいくしていただいて、読者の方にも褒めていただけることが多いのでぜひ見てほしいです。
ーー初の長編作品ですが、苦労した点はありますか?
いつも気持ちだけにフォーカスして描いているので、できごとベースで長いお話を考えることが本当にできなくて、4コマのように経験から求められているものを探ることもできなかったので、すべてが苦労でした...。またアイドルの恋愛についてはいろいろな意見があると思うので、インタビューや動画などを見て考えながらも、実在のだれかを連想させてしまってはいけないともずっと思っていて、不安も多かったです。物語にあわせて描いたことのないものを描く機会もたくさんあり、今印刷された絵を見返すと逃げ出したくなりますし、反省点は山ほどあります。
ーー作品にこめた思いや「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。
同じ時系列を何度も繰り返しているので、つながるポイントやアイテムを入れるようにしていて、読み返してみたらわかる所もあると思います。あとキャラクターの違いを小物や服で表現できるようにこだわったので、細かくチェックしてみていただけたら嬉しいです。
―最後に読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
自分しか知らない恋愛、ラブストーリーというには不足なもの、幸せな筋書きの裏に隠れてしまった気持ち、そういう眩しく輝かないものは見えにくいけれど、誰かと共有することもできると私は思います。その側にあるものをこれからも作れるよう、頑張りたいと思います。