2023/05/07 19:30 配信
張り巡らされた伏線と、その鮮やかな回収。ラストの大どんでん返しに「騙された」と驚かされつつも、胸にじんわり感動が広がる。そんな爽快なコンゲームミステリーが「カラスの親指 by rule of CROW’s thumb」(道尾秀介/講談社)だ。
主人公は、2人で暮らす中年詐欺師、武沢と入川。ひょんなことから、彼らの生活に1人の少女が加わり、同居人は増えに増え、5人と1匹に。奇妙な共同生活が始まったが、武沢の因縁の相手が彼らの生活を脅かすようになり、彼らは人生を懸けた大計画を企てる。
息もつかせぬ逆転劇、そして驚愕の結末。あなたもこの詐欺師たちに騙されてみてはいかがだろうか。
「すべてがFになる THE PERFECT INSIDER S&Mシリーズ(講談社文庫)」(森博嗣/講談社)は、あなたの知的好奇心を満たしてくれるに違いない作品。森博嗣氏だからこそ描けた緻密な理系ミステリーだ。
絶海の孤島の密室殺人と、その意外なトリックの面白さはもちろんのこと、この作品はSF要素も哲学要素もクセになる。20年以上も前の作品なのに、まるで現在の世界を予言するかのような記述の数々にあっと驚かされるし、何よりも天才たちの洒脱な会話にも惹きこまれる。「人間とは何か?」「愛とは何か?」と考えさせられる言葉がいくつも出てきて、思わず、読み手も唸らされてしまう。その難解な思想も含め、現代の生き方への有益な示唆に富む傑作だ。
この物語は、決して他人事ではない。そう思わされたのは、社会福祉制度に鋭く斬り込む社会派ミステリー「護られなかった者たちへ」(中山七里/宝島社)。佐藤健主演で映画化されたことも記憶に新しいのではないだろうか。
舞台は、東日本大震災から10年を経た宮城県仙台市。不可解な殺人事件と、その事件の数日前に出所した模範囚。やがて事件は次第にひとつの像を結び、生活保護制度をめぐる悲痛な現実が明らかになっていく。
著者の中山七里といえば、“どんでん返しの帝王”の異名をもつ作家だが、本書の結末にも驚きの仕掛けが。それが物語全体を貫くテーマと密接に結びついていることにも注目したい。コロナ禍で人々の格差がさらに拡大した今だからこそ、心に突き刺さる作品。
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