「性暴力被害者の声だけで戦わせたくない」NHK『性暴力を考える』チームが報道で目指す未来

番組を通じて自らの加害性に気づいたという反響

継続的な取材を通じて、日本社会の変化を感じる部分はあるのだろうか。

「フラワーデモやSNSの影響力によって、性暴力に対して声をあげていいんだという空気はじわじわ生まれてきたと思います。レイプだけでなく、痴漢だって盗撮だってれっきとした性暴力。そしてそれに伴って、あげられた声に耳を傾けようというムードもこの4年間で高まってきたのではないでしょうか」(飛田D)

「4年前は『性暴力は女性の問題』という意識が強かったと思います。ただもちろん男性の被害者もいらっしゃって、性別問わず誰もが被害者にも加害者にもなりうる。人間の尊厳を奪う、人権そのものの問題だということが徐々に認知されてきたと感じます」(村山D)

「みんなでプラス」ではウェブ記事を通じて当事者とつながる一方、チームではこれまで「クローズアップ現代」11本、「NHKスペシャル」1本などを放送している。テレビ番組という形が持つ力についてはどう考えているか聞いた。

「デジタルと放送は明確にターゲットが違います。ウェブ記事については、その情報を本当に必要としている方、被害者や関係者など当事者の方にしっかり届けるということを意識しています。一方で番組については、『クロ現』は総合テレビのゴールデンタイムですから、当事者以外も自分ごととして性暴力の問題を捉えてもらえるよう、テーマの設定や構成を工夫しています 」(久木CP)

「映像という形は、被害者の方が私たちの隣にいるかもしれないという実感がわきやすいですし、問題に関心がなかった方の目にとまるきっかけにもなります。以前、番組を見たことで過去の自分の行動が性加害だったと気づき、それからずっと考え続けているという視聴者からの声を頂きました。自分の中にある加害性に目を向けるきっかけにしていただけたのだと思います」(飛田D)

「盗撮がテーマの回を制作した際、制作チームの中でも『人にカメラを向ける』ということ自体の重さを改めて考え、盗撮という概念自体のアップデートがありました。今はスマホですぐに撮影できる時代。時代がどんどん変わって、デバイスも進化していく中で、視聴者の方にそういった意識のアップデートを広くお伝えできるという点でも、放送という形のインパクトは大きいのかなと思います」(神浦奈津子チーフ・プロデューサー)

こうした社会や人々の意識の変化により、「不同意性交等罪・不同意わいせつ罪」や「撮影罪」を明記した改正刑法が成立に至った。

「『同意のない性的行為は性暴力』ということをずっと伝えてきましたが、『そんなこと言われたら何もできない』『加害者についていった被害者も悪い』というような誤った社会の通説があったと感じています。不同意性交罪は、同意のない性的行為が処罰対象であるというメッセ―ジがこめられている。これが刑法によって明確に示されるのは、社会の認識を変えるためにすごく大きなことで、被害者の方たちが訴えてきたことが実ったと思います」(村山D)

「ただ、もちろん今回の改正でもう全部OKということではないですよね。たとえば本改正で時効が5年延長されますが、取材をしていると5年では足りないなと思いますし、殺人と同じように性暴力の時効が存在しない国もあります。性をめぐる人々の認識は変化していくものなので、法律も、社会の制度も、時代に合わせて常にアップデートしていくことが必要だと思います」(飛田D)

【写真】性暴力に抗議する“フラワーデモ”でプラカードを掲げる女性(C)NHK