「性暴力被害者の声だけで戦わせたくない」NHK『性暴力を考える』チームが報道で目指す未来

「被害者の声だけで戦わせたくない」から、報道を続ける

“性的同意”など「50歳からの性教育」をテーマに語り合う専門家たち(C)NHK


だが、今なお性暴力の報道は後を絶たない。日本社会に残る問題点はどのようなことだと感じるか、尋ねてみた。

「『性暴力はいけないこと』という認識自体は広まってきたと思います。ただ、『自分がやってることは性暴力じゃない』と思っている人たちも気づけるようにならなければ。 親が子に加害する、教師が生徒に加害するというような、明らかに社会正義に反する事件は糾弾するけど、セクハラや恋人・夫婦間の不同意性交などは性暴力だと思っていない・知らない人がまだ多い。被害・加害は自分の生活の中にも存在するということを、もっと伝えていく必要があると考えています」(飛田D)

また、被害者支援の面でも課題は残る。

「ひとりひとりの被害者が回復できたと思えるポイントって、人によって異なるんです。加害者が処罰されること、治療を受けて症状が改善すること、学校や仕事に通えるようになること、再発防止策がとられること、今の社会ではこれらが全部足りていない。支援体制も地域によってバラバラですし、トラウマの治療ができる精神科医の方も少ない。まだまだ問題点ばかりだと思います」(村山D)

「ある地方都市で取材をしたとき、コンビニに性暴力被害者へ向けたワンストップ支援センターの案内カードが置かれていたんです。思わず『こういう目にとまりやすいところに案内があるのはいいですね!』なんて言ってしまったら、取材協力者の方に『でも、ここから車で2時間かかるんです』と言われて。性暴力に遭って混乱し、切迫している状況で、そんな遠くまで行くのは難しい。 ワンストップ支援センターが1つだけしかないのは被害の数に見合っていなくて、声をあげても支援につながれない状況があると感じました」(飛田D)

最後に、この取り組みを続ける理由を、現場で被害者と向き合い続けてきたディレクター2人に聞いた。

「取材をしていて、性暴力は防ぎようがあるものだと思うんです。なくそうと思えばなくせる、こんなに人が傷つかなくてもいいはずのこと。教育、人々の認識、制度などを変えることで防いでいける。だから性暴力で苦しむ人を出さないために続けていきたい」(村山D)

「被害者の声だけで戦わせたくないという気持ちで取材を続けています。 当事者の方がしんどい思いをしながら頑張らないと状況が改善されていかない現状への申し訳なさ、後ろめたさがあります。もちろん当事者の言葉に力があることは事実ですが、被害者の方々がひとりで戦っていると感じないように、同じ立場にはなれなくても、思いを寄せて隣にいられたらと思っています」(飛田D)

手を繋ぐ恋人同士のイメージカット(C)NHK


■取材・文/WEBザテレビジョン編集部