コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、クライアントに振り回される男の元に女の幽霊が現れる物語『暗い案と』をピックアップ。
第1回朝日ホラーコミック大賞(朝日新聞出版)にて「Nemuki+ホラー大賞」を受賞し、“デザイナーあるある”を盛り込んだギャグホラーが反響を呼んだ本作。作者の北原順一さんが5月3日にTwitterに投稿したところ、3.6万以上の「いいね」が寄せられSNS上でも話題を集めている。この記事では北原順一さんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。
デザイナーとして働く山本は、商品のデザインを依頼され案出しをするも、意見をコロコロと変えるクライアントに辟易していた。ある日の夜、部屋で眠っているところを突然女の幽霊に襲われる山本。馬乗りで「殺してやる」と呟きながら首を絞めてくる女に、山本は「殺されるなら“猫耳美女”がいい!」と訴える。すると、女の幽霊はフッと消えてしまう。
次の日、クライアントの元を訪れた山本は、またもやデザインに大幅な修正を求められストレスを感じていた。夜、眠りにつくと昨晩の幽霊が再び現れる。要望どおり猫耳であることに驚きつつも、想像と異なるその姿に山本は「もっと人間味のある“スレンダー美女”がいい」「もっと健康的に」「もっと色っぽく」と次々に意見を出して…。
現実ではクライアントのブレブレな要望を聞き入れ、一方で幽霊には次々と曖昧な意見を出す山本が、はちゃめちゃなデザインに行き着いた先で得た“気づき”を描く本作。ホラー漫画ながらコメディタッチの作風と先の読めない展開が話題を集めている。
Twitter上では「ホラーかと思いきや腹抱えて笑いました」「この内容をこんな風に表現されるなんて素晴らしい」「最後ちょっとヒュッとなる読後感最高」「オチがちゃんとホラーすぎて困る」「私もクライアントに振り回されてるのですごく共感した」「営業職からすると原点に立ち返った気分」など読者から多くのコメントが寄せられ、反響を呼んでいる。
――『暗い案と』はどのようにして生まれた作品ですか?
元々デザイン関係の仕事をしていたため、「暗い案と」のような事態はよく起こりました。その時の自身の心の叫びと戒めを他の方々に伝えたいという気持ちから作成しましたが、そのまま描くと愚痴っぽくなるためホラーギャグ漫画にしました。
――Twitterに投稿後、3.6万を超える「いいね」が寄せられ、本作で描かれた“デザイナーあるある”についても読者から共感の声が集まっています。今回の反響について、北原順一さんの率直なご感想をお聞かせ下さい。
まさかこんなに「いいね」がもらえるとは思いませんでした。かなり戸惑っております。しかし、感想を見ると様々な職種の方(主にクリエイティブ職)からの共感と怨嗟の声を頂き、とても励みになりました。印象的だった感想は「自身の会社の研修の教材に使います」というものです。嬉しい反面「私の漫画を教材に使って悪影響はないだろうか?」と心配になりました。
――ギャグとホラーが交錯する本作ですが、中でも綿密に描き込まれた幽霊たちはどれも恐ろしく、迫力があって印象的でした。作画の際にこだわった点や特に意識した点がありましたら教えてください。
「伝わらないが故の極端」を描きたかったため、特に現れた幽霊を「極端な恐ろしい姿」にしたいと考えておりました。なので毎回幽霊が現れるたびに、読者の方々の予想の一つ上の化け物にすることを心がけていました。そのせいもあって、要望が混ざり合った化け物のシーンを描く頃には、私自身が何を描いているのか分からなくなっていました。まさに「アイデアのインフレ」が漫画内で起こっていたのです。それが作画の迫力に良い影響を与えたのだと感じております。
――本作の中で特に思い入れのあるシーンやセリフはありますか?
主人公が化け物に放った「良い感じのやつだよ!!」というセリフが気に入ってます。私も仕事で何度も上司やお客様からお聞きしたセリフです。具体性のない指示は良くはありませんが、プロのクリエイターならば自身で聞き出すテクニック、もしくはクライアントを誘導する努力が必要なのだと自身への戒めとして「良い感じのやつだよ!!」というセリフを推しています。
――北原順一さんはこれまでにも、コンテスト受賞作である『地獄の極谷』(小学館)や『佐伯さん45%』(講談社)など、ホラーギャグ漫画を多く描いていらっしゃいますが、創作全般においてのこだわりがありましたら教えてください。
多くの方々が日々の仕事の中で「しんどいなぁ」とか「楽しくないなぁ」と感じているかと思います。私はその辛さを少しだけ笑い飛ばせるような作品を描いて読者の方々を応援したいなと常々思っておりました。意識して作品作りをしていませんでしたが、見返してみるとそれが私のこだわりなのかもしれません。
会社で自身の置かれた状況も「これはホラーだな」と思うことができれば、少しだけ面白おかしく感じることができるかもしれません。なぜなら、多くのサラリーマンの日常は「漫画以上のホラー」が溢れていますから。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
現在、連載作品のリリースに向けて準備中です。なので、たまに私をTwitterで検索していただけると私の新作に出会えるかと思います。世の中暗いニュースばかりで辛いことも多いかと思いますが、読者の方々の気持ちが少しでも楽しくなれるような作品を作っていきたいと思います。
皆さんをいつも応援していますので、今後ともよろしくお願いいたします。
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