【漫画】人間のエゴに振り回されたAIドールの末路とは…悲哀漂うSF物語に反響「情緒を抉られる」「心が苦しい」

2023/07/01 10:00 配信

芸能一般 インタビュー

ご主人様に仕えるAIドールの過酷な境遇…伊藤黒介さんの『トミノ』が話題画像提供/伊藤黒介さん

コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回は、作者・伊藤黒介さんによる創作漫画『トミノ』をピックアップ。

Twitterにて不定期連載されている本作は、“人を裏切らない”AIドール・トミノを主人公にした物語だ。作者である伊藤さんが4月4日から5月17日のあいだに「前編/愛をあなたに」をTwitterにて公開したところ、1.2万以上の「いいね」が寄せられ話題を集めている。この記事では伊藤黒介さんにインタビューを行い、創作の背景やこだわりについてを語ってもらった。

“決して人を裏切らない”トミノ 人間のエゴや闇を描くAIラブストーリー

『トミノ』前編より画像提供/伊藤黒介さん


病気持ちで独身の木嶋誠一はある日、父親の遺産でAI搭載の人型ロボットを購入する。それは愛らしい容姿で人間と遜色のない対話能力や運動能力をもち、決して人を裏切らないという最新型ドールだった。木嶋は彼女に“トミノ”と命名すると、料理や掃除などの家事から、運動、遊び、そして夜の営みまでを共にするようになる。

トミノがやってきてから、健康や服装に気を遣うようになり、性格もだんだんと前向きに変わっていった木嶋。趣味で美術館に通い始めた2人は、そこで学芸員の女性と知り合う。美術という共通の趣味を持つことからその女性にデートに誘われた木嶋は、女性と親密になるにつれてトミノを自宅に留守番させることが多くなり、相手にすることもなくなっていった。

そんな中、木嶋はトミノを連れて久しぶりに外に出る。バイクを走らせ、川に架かる大きな橋の上で止まると木嶋は「もう戻ってくるな」と告げ、橋の上からトミノを突き飛ばす。捨てられて川に沈んだトミノ。その後、岸まで流されて動けないところをあるホームレスに発見され、保護されることになるのだが…。

人間の身勝手な都合やエゴに振り回されるAIドールの過酷な境遇と悲哀を描く本作。Twitter上では「切ない」「めちゃくちゃ情緒を抉られる」「心が苦しい」「芯まで血肉の通った漫画」「最後はせめて幸せになってほしい」「人の闇とどう向き合っていくのか続きが気になって仕方ない」などのコメントが寄せられ、反響を呼んでいる。

スタートラインにも立てない“爪弾き者”と“天使”の物語を 作者・伊藤黒介さんが語る創作背景とこだわり

『トミノ』前編より画像提供/伊藤黒介さん


――『トミノ』を創作したきっかけや理由があれば教えてください。

昨今のAI隆盛を受けて、AIというものの捉え方が大きく変わる節目の時代に来ていると感じます。AIに対する認識がどう変わるにせよ、鉄腕アトムやドラえもんのような、人工知能を擬人化した昔ながらのSF物語が作れるのは今が最後ではないかと思い、急遽話を考えてその日のうちに描き始めました。ロボット物を一度やってみたかったので。

――本作の前編『愛をあなたに』では、病気持ちの醜男・木嶋誠一がAI搭載ドール“トミノ”を購入するところから物語が始まります。トミノと誠一、それぞれのキャラクターはどのように生み出されたのでしょうか?

元来、少数派の例外、爪弾き者に感情移入して話を考えるたちです。容姿や能力や国籍など一定の水準を確保できている人間が、努力すれば改善できる程度の問題を頑張る物語は世にいくらでもありますが、スタートラインにも立てないあぶれ者はどうすればいいのか。そういう物語を描きたい作家なので、その結果が木嶋誠一やホームレスの視点になります。手を差し伸べてくれる天使が降りてくるパターンは定番ですが、トミノはその類型です。その天使役を人間が務めてくれるイメージはわたしには浮かばなかったので、そういうことです。

――本作では旧約聖書や作家たちの言葉がたびたび引用され、物語の世界観が一層深みを増しているように感じます。伊藤黒介さんが本作に込めた思いやテーマ、また「ここを見てほしい」というポイントがあればお教えください。

自分好みの漫画が読みたくて自分で描いてるだけで、格好つくようなテーマなどは考えてません。

どこを見てほしいというのはなく、読者が見たいように見てくれればよいです。作者の意図より読者の視点の方が面白い事もあるでしょうし。好きなように読んでください。

――作中、巧みに練られた構図やトミノたちの表情描写もとても印象的でした。作画の際にこだわった点や特に意識した点があればお教えください。

描き込まないようにしています。商業志向もないですし、パースも適当にしてラフに描いてます。体力もないしこだわるといつまでも終わらないので、ベタを多用して複雑そうなところはぐじぐじにしてごまかしてます。

――前編の中で特に思い入れのあるシーンやセリフはありますか?

「馬鹿がいるおかげで俺たちクズが食ってけるのさ」とか言ってるやくざ者が気に入ってます。人に興味がない人には清々しさがあります。もう出てこないと思いますが。

――現在中編以降を執筆中とのことですが、続きを楽しみにしている読者やファンの方へメッセージをお願いします。

結末まで考えてありますが、商業と違って自分の趣味で描いてるので、最大公約数的にスッキリと気持ちのいいハッピーエンドは保証できません。それでよろしければお付き合いいただければ幸甚です。