テレビ東京ほかで放送中のグルメ番組「液体グルメバラエティー たれ」。毎週「食通100人に自分の一番好きなたれを聞くたれランキング」やハンバーグに合うたれ、焼き肉に合うたれなどをテーマに、勝俣州和らが真剣に「たれ会議」するなど遊び心満載の同番組。
この番組の真剣なおふざけに少しでも近づくべく、番組の生みの親であり、構成作家を務める矢野了平氏にインタビューを敢行。「たれ」が生まれるきっかけや、意外な番組の見方を享受してくれた。
――そもそも、「たれ」が生まれるきっかけとは?
ことのきっかけは、ある焼き肉店に連れて行ってもらった時に、その店に「人をダメにするたれ」があると聞いたんです。はじめは普通に焼き肉を食べていたんですけど、「じゃあそろそろ…」というところでおいしいカルビのお肉に、薬味がいっぱい入ったたれが出てきて。
そのたれを付けながら焼いたカルビを小さめの茶わんに盛ったご飯にのせて、さらに薬味を小さじ一杯ぽんと乗っけたものを、ハイと渡されたんですよ。
それを食べた時に「ウマい!!!!」と思って…その瞬間にご飯ごとすべてがなくなっていたんですよ。一瞬記憶が飛ぶというか。それを食べたらダイエット中とか関係なく、無意識のうちに炭水化物を取ってしまう、と。それくらいおいしいたれに出合ったんです。
そこで、「人をダメにするたれ」と言いましたけど、よく考えたら、たれって「秘伝のたれ」「魅惑のたれ」「継ぎ足しのたれ」と、魅力的な言葉が多いなと。お店のこだわりとか、味の深みとか、いろんなことが詰まっているなあと思ったんです。それが心に残っていて、「たれ」で何か企画ができないかと思ったのが発端でした。
――テレビ東京との親和性も非常に高いと感じました。いい意味で、「またテレ東がおバカなことを考えた!」と。
この企画はいろんなところに打診してみたんですけど、なかなか理解してもらえませんでしたね。そんな中で手を上げてくださったのがテレ東でした。
それこそ、「池の水抜く」じゃないですけど、「そこ行くか!」と驚かせつつ、「バカだな、だけど気になる」と思わせる企画がテレ東のおはこですよね。「池の水って抜いたら何が出てくるんだろう?」と考えて、ワクワクした経験が誰にでもあるじゃないですか。
たれに関しても「オススメのたれ、ありますか?」って聞くと、誰でも頭の中にたれの引き出しがあるんですよ。
――確かに、この番組の企画を聞いて、まず身近な人と「たれ」トーク、してしまいました。
アンケートの回答率も100%なんですよ。普通、アンケートした時に回答してくれるのって7割くらいがだいたいなんですが、「特になし」はまったくなくて、全員何かしらの答えが返ってくるんです。しかも必ず何か愛情のこもった内容がある。
日頃からグルメな人は「この店の」、故郷や思い出の味がある人は「うちのふるさとの」、料理自慢の人は「俺が作る」と、好きなたれを聞くだけでその人の愛情の方向性も少し見えてくるんです。それは番組を始めてからの発見でもありましたね。
――テレビ東京らしいドキュメント性もあったんですね!
例えばアンテナショップでたれを調べるだけで日本全国が見えてきますし、商店街を歩くだけでお店の人の人情やこだわりも見えてくる。実は「たれ」は人間性に迫れる面白いワードなんですよ。
――魅力あふれる企画性に驚くばかりです。そもそも矢野さんがグルメにハマったきっかけとは? どちらかというと、クイズ番組の作家さんのイメージでしたので…。
僕は父親がすし職人なんですよ。それもあってか、子供の時からおいしいものが好きで、大学でクイズ研究会に所属しながら、アルバイトはずっと料理に関わるものばかりでした。とあるチェーンの居酒屋のオープニングから厨房(ちゅうぼう)に立っていて、大学を卒業する時はそのまま居酒屋の社員になろうかなと考えていたんです。
そんな中、クイズ番組の問題を考えるアルバイトもしていたのですが、ある日問題を提出しに行ったら、プロデューサーに構成作家になれと言われたんです。せっかくの縁だからやってみて、ダメだったら料理に戻ればいいやと。なので僕にとってはベースに料理はずっとあるんですよね。
だから、おいしい食べ物を自分なりにかみ砕いて、たくさんの人に楽しく伝えられるような番組をやってみたいという気持ちはずっとあったんです。
――その念願かなっての「たれ」と考えていいでしょうか?
そうですね(笑)。家で自分で料理を作ることが多かったんです。僕が中学・高校の頃はインターネットもまだない時代で、「料理の鉄人」(フジ系)とか面白い料理番組が放送されていました。カルボナーラとかテレビの中で見たことはあるけれど、食べたことがないものがたくさん出てきて。
その時にnon-noの「お料理基本大百科」っていう、ジャンル問わずいろんな料理のレシピを一通り網羅した、5000円くらいの本をお年玉で買ったんです。それを自分で見て、作ってみて、食べるっていうことがすごく面白かったんですよね。
――根底にnon-noとはちょっと意外でした。
食材に関しても徹底的に網羅している本だったので、クイズのネタを拾うこともよくありました(笑)。その本は今でもわが家にありますよ。
僕は今でも息子の弁当を作ったり、料理は欠かさずしているのですが、この番組を始めてからいろんなたれを知って、近所のスーパーに行くのが楽しくなりましたね。たれとかドレッシングの棚って、隅から隅まで見ていると意外な発見があるんです。こんなのが新発売されてるんだとか、たれコーナーってスーパーの中では意外な盲点だと思うんですよ。
日本人ってだいたい子供の頃からソースはこれ、ドレッシングはこれ、とか「わが家のたれ」があるからみんな冒険しないところなんです。だからこそ改めて棚を見るとたくさんの発見がありますよ。
――これだけ興味がそそられる上に、生活に反映できる番組って、なかなかないですよ。
ワインにこだわる人や、水にこだわる人がいるように、“たれにこだわるスペシャリスト”がいたら…って考えると、なんだか楽しいですよね。
今、動いている企画で「壺のタレ、全部抜く!」という企画があるんですよ。池の水を抜くドキドキ感を、壺のたれで味わいたくて(笑)。そういうテレ東のパロディーもやってみたいなと思ってるんです。ワクワクしませんか? 老舗の焼き鳥店の壺の中って、一体どうなってるんだろうって。
それに今回は夏の放送なので涼し気なものや、鰻などを扱っていますが、これが冬なら温泉街のご当地だれを特集したり、鍋に合うポン酢ナンバーワンは何か? とか、いくらでも企画が浮かぶんです。
――まだ始まったばかりですが「終わらないで!」という気持ちでいっぱいになってしまいました…。さて、最後に番組の魅力を一言でお願いできますでしょうか。
“溺れて楽しい番組”でしょうか。第1回放送は、30秒に1回たれを掛けるシーンがあったんですよ。これだけじゃぶじゃぶ掛けてたらそれだけで幸福感がありますから、そこにしっかり溺れてほしいです。“飯テロ”どころではなく、たれにどっぷりつかって溺れてください。
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